北斗
□He is She .
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少し雲が出た晴れの日。アミバの家。
その日もアミバは いつものように作戦を練っていた。憎きトキを如何にして 倒すことが出来るか。試行錯誤して 考えを張り巡らせていた。そんな時だった。
「おぉぉいい !! アミバ居るかぁあ !!! 」
突然 その声と荒々しく扉を開ける音に、アミバの集中力は途切られた。
「誰だぁあ !! この天才 アミバ様が考え事をしているときに来やがった、空気の読めない野郎はぁあ !! 」
「はぁあ !? わかんねぇのかよ、俺だよ 俺 ! 」
その声の主は 何度も「俺だよ !! 」 と苛立ち気に声をあげる。しかし、アミバはその主を見ても 首をかしげるばかりだ。それもそのはず、声の主は女であった。女にしては やや低めの声だが、歴とした女である。アミバの記憶を辿る限り、この女は見たことがない。
「誰だぁ、お前…」
「てめぇ ボケてんのかコラァ」
余りにもアミバが気が付かないからか 女の眉間には深い皺がよっていく。
「お前みたいな女は見たことがないぞ…」
顎に手を当て 考え込むアミバ。苛立ちが頂点まで上った女は 肩を震わせて言い放った。
「これを見ても分からねぇか !! 」
そう言うと 女は突然、着ていた服を 胸のすぐ下まで捲り上げた。驚いたアミバは 目の前の事実に呆然とした。
服の下から露出された白い肌には 女には似合わないような傷跡が点々と散らばっていた。この穴のような傷、位置… もしや…。
「…ジャギ、か ? 」
「おっせぇんだよ !!! 」
やっと自分に気付いたアミバに 女の体をしたジャギは怒鳴った。
「てめぇ 仮にも天才なんだろ !! 早くどうにかしてくれよ !! 」
「仮じゃなく天才だ。何をするんだ」
「この体を治すんだよ !! 」
若干焦りだしたジャギの顔には 不安の色が見えてきた。とりあえず 診てみなくては始まらない。アミバは、勝手に上がり込んできたジャギを 部屋の奥へ招き入れた。奥の部屋は普段 木人形 (デク)達を実験する時や 新しい秘孔を研究する時に使う場所で、真ん中に手術台 壁と机一面に 様々な図や説明が書かれた紙が散乱し、壁に沿っていくつもの本棚が並んでいた。アミバは 椅子に座り 部屋を見渡すジャギを見た。初めてこの部屋に入ったジャギは 物珍しそうに部屋中を観察する。
「きったねぇ部屋だなぁオイ」
「うるさい。とにかく そこにそのまま立ってみろ」
言われた通り ジャギはアミバの前に立った。アミバは診察する医者のように ジャギの体を眺めた。しかし、よく出来ているなあ。男らしかった太い腕や足も 全部女の様に細くなっている。背も縮んだのか。いやしかし、傷痕と髪の色は変わらんなあ。ボソボソ呟きながら 見定める様に視線を動かすアミバに
「ジロジロ見んじゃねぇ !! 」
と ジャギが噛みつくように言い放つ。
「ジロジロ見なければ分からんだろうが」
フンッと鼻を鳴らした。
「しかしジャギよ。何故こんなことになったのだ」
「あぁ、ケンシロウとなぁ…」
ジャギの話によると、道場で修行をしているときにそれは起こった。
ジャギとケンシロウが向かい合って修行をしていた。お互いの秘孔に印を付け いかに正確に突くことが出来るか、度々行われる二人一組での内容だ。ジャギはいつものように 闇雲にケンシロウの秘孔を突きまくった。それに耐えかねたケンシロウが 目一杯ある秘孔を突いた。すると ジャギの体に突然大きな痛みが走り、獣のような叫び声をあげ始めた。そしてその叫びは次第に甲高くなり、それに気付いて駆け付けた兄達が来た頃には ジャギは今の姿になっていたのだ。訳も分からずこの姿になったジャギは道場を飛び出し アミバの元に来た、というわけである。
「ジャギ… お前は俺を必要としているのだな…」
「何だよ、気色悪ぃ事言ってねぇで 早くしてくれよ」
アミバの感動を表す言葉に ジャギがピシャリと返す。
「だがしかしジャギ。これは流石に天才の俺でも分からんぞ」
「はぁぁああ ? 」
俺は思ったことを言ったまでだ。そう言ってアミバは立ち上がると、本棚から数冊の分厚い本を取り出してきた。秘孔について書かれた医学書である。
「とりあえず 今日は帰れ。この天才アミバ様が特別に その症状を調べておいてやろう。ぬぁっはっはっ !! 」
高笑いしながら医学書のページをめくるアミバは ジャギに背を向けたまま手を返して シッシッと追い出す仕草をした。しかし いくら経っても部屋から出る気配がないジャギ。不思議に思って アミバは振り返ってジャギを見た。
「どうした、ジャギ」
「…俺 当分帰らねぇぞ」
「………………は?」
何をいきなり言い出すか。呆気にとられたアミバを横に、ジャギは手術台に腰かけた。
「こんな姿 他の門下生達や部下達に見せたくねぇからな。
当分置いてくれや」
「何を軽々しく言うのだお前は !! 」
「言いじゃねぇかよ。ケチ言うな」
「おま、仮にも女の姿なんだぞ !! 」
普段あまり女を側に置かないアミバは 目の前の女がジャギであると分かっていても 若干やりずらそうにしていたのだ。
「女の姿だから帰りたくねぇんだよ。治ったらすぐ帰るからよぉ」
それに、俺だって分かってんだから 手なんか出さねぇだろ。
ハハハとふざけたように笑ったジャギは 「じゃあ よろしく頼むわ」と半ば強引に約束を取り付け、この部屋から出て行った。
「……はぁ。面倒事を押し付けられたか」
頭を抱えてため息をついたアミバの苦悩は続く。
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#130702