北斗
□素直になれ
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【素直になれ】
雨降る夕方、俺が持ってきた段ボール箱に
幼い兄弟達は興味津々だった。
「兄者、何持ってるんだー ? 」
「ぬ」
「あ、兄さん、猫…」
「猫だーーー !! 」
はしゃぎ盛りの三男が嬉しさのあまり、
部屋中を走り回っていたのを覚えている。
賑やかな兄弟は家を出て、長兄の俺と体が弱い次兄だけがこの家に残った。
四人の育ち盛りが居て狭かったこの家も、
二人だけになると妙に広く感じる。
「トキ…」
「なんだい ? 」「にゃー 」
「………」
二人じゃなかった。
まだ俺が今より幼かった頃、気紛れで拾ってきた奴。
雨で汚れた体を洗って乾かしてやると、
雪のように白い毛並みをしていた。
「なぁなぁ、こいつ、トキ兄者みたいだな」
ジャギの言葉に、横でしゃがんでいるケンシロウも頷く。
「トキ兄者若白髪だし、なんかオシトヤカ? みたいな。こいつもそんな感じ!」
確かに16、7位のトキは既に髪を白くしていた。
幼い頃にかかった病の副作用だ。
そして、母親がわりに俺達の為に家事をしてくれていたトキは
小さいジャギから見たら"おしとやか"だったのかもしれない。
「ならば、こいつの名前は『トキ』で良いのか ? 」
冗談で言った俺の提案に、幼い二人は「それだ!」と言わんばかりの顔をし、
白い毛をペロペロ舐める猫を「トキ!」なんて呼び始めた。
呆れ顔のトキ自身が俺を見る。
今回は俺が悪かった、と俺は苦笑いをした。
「お前ではない、人の方のトキだ」
猫のトキを抱き抱えて、人の方のトキの元へ行く。
「兄さんは、その子には甘いんだから」
「そうか ? 」
「そうだよ、ずっと抱っこしてるじゃない」
フフ、と微笑んで人のトキが俺の腕の中の小さな頭を優しく撫でた。
「こやつ、満更でもない顔をしておるわ」
「私の撫で方は最高だろう ? 」
なんやかんや言って、トキも甘いのだ。
知っておるぞ、縁側で一緒に日向ぼっこをしているのを。
日を浴びた二つの白いのは、太陽の熱で暖かったのだろう。
少ししてもう一度見に行ったら、重なりあって寝ていた。
人のトキの上で丸なる猫のトキ。
「鏡餅だな…」と呟いて毛布を取りに行ったのだ。
「うぬも甘いのだぞ」
「え、そうかな」
首をかしげるトキに、猫のトキを渡す。
二つのフワフワ。四つの目が俺を見る。
「兄さんどうしたの ? 」
「愛らしいものだ」
「へ……」「にゃー」
「あ、あぁ!この子ね!はいはい」
笑って何かを誤魔化す、人のトキ。
腕の中で何事もないようにキョロキョロする、猫のトキ。
「あ、そうだ兄さん!何か用あったの ? 」
「ぬ…、飯はまだかと」
「あ…はいはい!もう少し待ってね」
猫のトキを床に降ろして、台所まで駆け出す姿に笑いが込み上げる
。
「奴は何を思ったのだろうな…」
俺の足元をウロウロしてるトキを抱える。
「にゃー」とまた一鳴きし、シャツの胸に顔をグイグイ押し付ける。
「お前のように素直であったらな…」
腕の中の奴に笑いかけ、台所で急いで支度する姿を思い浮かべた。
「にゃーん」
猫のトキの鳴き声が部屋に響いた。
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ぬこ話。
焦るトキ兄さん初々しー