北斗

□素直になれ
1ページ/1ページ







【素直になれ】






雨降る夕方、俺が持ってきた段ボール箱に
幼い兄弟達は興味津々だった。

「兄者、何持ってるんだー ? 」
「ぬ」
「あ、兄さん、猫…」
「猫だーーー !! 」

はしゃぎ盛りの三男が嬉しさのあまり、
部屋中を走り回っていたのを覚えている。







賑やかな兄弟は家を出て、長兄の俺と体が弱い次兄だけがこの家に残った。
四人の育ち盛りが居て狭かったこの家も、
二人だけになると妙に広く感じる。

「トキ…」
「なんだい ? 」「にゃー 」
「………」

二人じゃなかった。
まだ俺が今より幼かった頃、気紛れで拾ってきた奴。
雨で汚れた体を洗って乾かしてやると、
雪のように白い毛並みをしていた。

「なぁなぁ、こいつ、トキ兄者みたいだな」

ジャギの言葉に、横でしゃがんでいるケンシロウも頷く。

「トキ兄者若白髪だし、なんかオシトヤカ? みたいな。こいつもそんな感じ!」

確かに16、7位のトキは既に髪を白くしていた。
幼い頃にかかった病の副作用だ。
そして、母親がわりに俺達の為に家事をしてくれていたトキは
小さいジャギから見たら"おしとやか"だったのかもしれない。

「ならば、こいつの名前は『トキ』で良いのか ? 」

冗談で言った俺の提案に、幼い二人は「それだ!」と言わんばかりの顔をし、
白い毛をペロペロ舐める猫を「トキ!」なんて呼び始めた。
呆れ顔のトキ自身が俺を見る。
今回は俺が悪かった、と俺は苦笑いをした。







「お前ではない、人の方のトキだ」

猫のトキを抱き抱えて、人の方のトキの元へ行く。

「兄さんは、その子には甘いんだから」
「そうか ? 」
「そうだよ、ずっと抱っこしてるじゃない」

フフ、と微笑んで人のトキが俺の腕の中の小さな頭を優しく撫でた。

「こやつ、満更でもない顔をしておるわ」
「私の撫で方は最高だろう ? 」

なんやかんや言って、トキも甘いのだ。
知っておるぞ、縁側で一緒に日向ぼっこをしているのを。
日を浴びた二つの白いのは、太陽の熱で暖かったのだろう。
少ししてもう一度見に行ったら、重なりあって寝ていた。
人のトキの上で丸なる猫のトキ。
「鏡餅だな…」と呟いて毛布を取りに行ったのだ。

「うぬも甘いのだぞ」
「え、そうかな」

首をかしげるトキに、猫のトキを渡す。
二つのフワフワ。四つの目が俺を見る。

「兄さんどうしたの ? 」
「愛らしいものだ」
「へ……」「にゃー」

「あ、あぁ!この子ね!はいはい」

笑って何かを誤魔化す、人のトキ。
腕の中で何事もないようにキョロキョロする、猫のトキ。

「あ、そうだ兄さん!何か用あったの ? 」
「ぬ…、飯はまだかと」
「あ…はいはい!もう少し待ってね」

猫のトキを床に降ろして、台所まで駆け出す姿に笑いが込み上げる


「奴は何を思ったのだろうな…」

俺の足元をウロウロしてるトキを抱える。
「にゃー」とまた一鳴きし、シャツの胸に顔をグイグイ押し付ける。

「お前のように素直であったらな…」

腕の中の奴に笑いかけ、台所で急いで支度する姿を思い浮かべた。

「にゃーん」

猫のトキの鳴き声が部屋に響いた。










+++++




ぬこ話。
焦るトキ兄さん初々しー

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ