北斗
□七夕コーナー
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その日 ジャギはいつもより早く家に帰っていた。
「アミバー アイスが無ぇぞー」
「お前はそんなモンばかり食べるな 腹壊すぞ」
「でもよぉ、冷蔵庫の中 何も入ってないぜ」
「…… 買い出し、行くか?」
「アイス買ってくれるなら」
「………はぁ。ガキか」
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「ありがとうございましたー」
レジで会計を済ませたアミバは、先に荷物を袋に詰めに行ったジャギの元へ行った。
「詰め終わったかー?」
「てめぇ、買いすぎだろ…」
「そうか?」
「そうだよ、明らかに てめーが一人で買いに行くときと量が違うじゃねぇか !! 」
後ろからジャギの手元を覗き込もうとするアミバに、ジャギは食って掛かった。ジャギの目の前には 大量の食料が入った大きなエコバッグが三袋。普段なら一袋のはずだったが、今日のアミバは容赦なしに食料をカートに積んでいた。
「これはほとんどお前が消費するのだぞ、ジャギよ」
「あ?」
「お前の食費はかなり掛かるんだ。毎日何合米を炊いてると…」
ここでアミバの主夫モードにスイッチが付いた。大学に通いながらもジャギの面倒を甲斐甲斐しく焼いていたアミバは、いつしか家事スキルを高めていき 今では何処に嫁に出しても恥ずかしくない主夫と化していた。
「それに、今日はお前がいるからな。大量の荷物を持たなくて済むわ」
ぬわっはっはっは!! 偉そうに笑うアミバにしてやられた感満載なジャギは、スーパーの出口付近で ある物を見つけた。
「おー懐かしいな。アミバ来いよ」
「何だ、何かあったか」
アミバが呼ばれて駆け寄るとそこには、折り紙で装飾をされた大きな竹が飾られていた。その竹から下がっている枝には たくさんの短冊が垂れている。
「小さい頃書いたなあ」
「アミバァ 何か書けよ」
ニタニタ笑いながら ジャギは既に一枚の短冊とペンを持っていた。
「アホかお前は。この荷物の中には冷凍食品だって入っているんだぞ」
「大丈夫だって。書いたらすぐ帰るし」
「お前の買ったガリ○リ君も入ってるぞ。棒アイスはすぐ溶けるぞ」
「帰りながら食うから大丈夫だ」
「だがしかs」
「大丈夫だって !! 」
無理矢理押しきられて、アミバはしょうがなく手にしていたエコバッグを床に置き、そばにある短冊を書くためのテーブルに移動した。
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「書けた !! 」
「わっ」
短冊に集中していたアミバが ジャギの声に驚く。ジャギは子供のように 書いた短冊を笹に吊るしに行った。
「アミバー書いたかー」
「あぁ」
言われてアミバも書き終えた短冊を、ジャギとは、反対の方の笹に吊るす。
「ジャギは何を書いたんだ?」
「ん? 聞きたいか」
「 あぁ」
楽しそうに笑うジャギの方に行き、吊るされた短冊を覗きこんだ。
『ケンシロウに悪いことが起こりますように ! 』
「これをお願いするのか…?」
「おう !! 我ながら良い願いだ。アイス食べまくりたいと迷ったんだがなぁ」
なんとゆうか、自由な奴だな。アミバは短冊を見ながら心の中で呟いた。
「おい、てめーはなんて書いたんだよ」
アミバの短冊を探しに行こうとするジャギを、アミバは慌てて止めた。
「待てジャギ !! そろっと帰らないと アイスマジで溶けるぞ !! 」
「ゲッ、もうこんな時間かよ」
ジャギは腕時計を見て しかめっ面をした。
「よし帰るぞ、こっちの袋二つ持ってくれ」
「俺 二つも持つのかよ」
「お前は荷物係で来たんだろう。そっちの袋にアイス入ってるからな」
「ちぇー」
口を尖らせながら ジャギはパンパンに膨れたエコバッグを二つ持ち上げた。
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渋々袋を持って先にスーパーを出たジャギ。その後ろでアミバは安堵のため息をつく。流されやすくて良かった。あの短冊を見られるのは 流石に気恥ずかしい。
「アミバー お前もアイス食うかー」
前の方を歩くジャギの手には、アミバの分のアイスもあった。
「あぁ、今行く」
いつもよりズシリと重さを感じるバッグを肩に、アミバはジャギの元に急いだ。
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「兄さん、短冊たくさん下がってる」
「本当だ。ケンシロウも書くかい?」
「うぬも書くか、トキよ」
「二人で書いてなよ。私は見てるだけでいいから」
彼は色鮮やかな短冊を眺めながら微笑む。
「可愛らしいものばかりだ… おや」
目に入ったのは、子供らしからぬ固い文字で書かれた短冊。そこに書かれた文を呟く。
「いつまでもコイツと居られますように… 」
恋人宛かな。小さく笑いながら 彼はその短冊を笹の葉と短冊で入り交じれた中にそっと隠した。
「…届くといいね」
「兄さん 書けたぞ」
「よし、吊るすか」
「二人とも 私にも見せてよ」
何も見てなかったかのように踵を返し、彼は二人の兄弟の元へ歩きだした。
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#130706