Clapありがとうございます!!
この下からお礼小話となります。



詐欺師のお姉さま 3
※1、2を読んでいなくても話は分かるようになっています。




「まーくーん! ちょぉーっとおいでー」


リビングからやけに間延びした声で姉から呼ばれる。物凄く嫌な予感しかしない。しかし15年間共に過ごした弟の感と言うものがそれに逆らうなと俺の中の何かが告げている。なんて若干アレな事を考えてみるが、要は無視した後の報復が怖いから従わなければいけないのだ。俺はやけに重く感じられる足を引きづってリビングへと赴いた。そこにはソファーに座った姉が何やらポーチの中身を漁りながら俺を待ち構えている。リビングへと入って来た俺を見つけるなり、そのソファーの前、つまり姉と向かい合うように床へと座らされた。(俺だけ床とかそういう事はツッコまない)


「あのなーまーくん。お姉ちゃんな新しいマスカラ買って来たんよ」

「………」

「だけどな買ったばかりであんまり馴染まんくて、ちょぉーっとまーくんで試させてくれん?」

「鬼畜姉貴!!」


弟でマスカラの実験台させる気か!? なんて鬼畜な姉なんだ! 今まで姉からの無理難題を嫌々とはいえ付き合ってきたが、それだけは絶対に嫌だ! 鬼だ、悪魔だ、鬼畜だ、と腰が引けつつも呟いていると目の前の姉はニヤリと笑みを浮べる。なんだその笑いは。逃げたらどうなるか分かってるよな、って言いたいのか。それでも今回は引かないぞ。15の男がマスカラなんて絶対にごめんだ! 口には出せないものの目で必死に訴え睨みつける。睨みつけるも手の力で後ろに少しずつ後ずさるのは忘れない。今日こそは逃げてやる、とそう思った瞬間、今まで笑みを浮べていた姉の顔が一瞬で無表情になった。…え?


「………」

「………」

「………」

「………」

「……、姉貴?」

「………」

「………ぁ、あね、姉貴、姉貴?」

「………」

「、え? なんで黙っとる? …ぇ、え?」

「………」

「………」

「………」

「…や、やればええんじゃろ!」


あまりの無表情&無言っぷりに恐ろしくなった俺は自ら実験台へとなるべく名乗りでる。いつもニヤニヤと人の事を馬鹿にした笑みや、ニヤリと悪い事を考えている笑みばかりを浮べている姉だから、あの無表情には背筋が凍りついた。自分でも目に見えて焦って混乱しているのが分かるぐらいだ。心の中の想いとは裏腹に口が開いてしまったのは仕方がない事だろう。だって怖かった…。なんていまだに冷や汗を流していた次の瞬間、


「そーか、そーか。そんなにお姉ちゃんにお化粧してもらいたいんか。仕方ないのう。こっちに来んしゃい」

「、!!」


ものすっごい良い笑顔で俺を呼び寄せた。分かってた、分かってたけど!! 俺は顔全体に悔しさを滲ませながら、それでもやっぱり姉には逆らえなくて先ほどの位置へと戻って行く。すると俺が目の前に来るのを確認してまたポーチの中身を漁り始める。中からはよく分からない物が大量に出てきて、そのうちの1つクリップのようなもので前髪をくるりと一纏めにし、それを頭のてっぺんへと持っていった。デコ丸出し……。そしてもう一度ポーチの中を漁ると手の中の1つを何の前触れもなく俺の顔にぶっかけた。


「ぶはっ!」

「じっとしろー」


そう言って俺の顔に手を伸ばす姉。水のような透明な液体が顔を濡らし、それを姉の手が顔全体に塗りつけていく。そして今度は肌色。それらをせっせと俺の顔に塗った所で手のひらサイズのケースが出てきた。しかしそれが出てきた所である違和感に気づく。


「おい」

「なんじゃ」

「マスカラの実験台って言うとらんかったか?」

「え? お姉ちゃんのお化粧の実験台じゃろ」

「………」

「まーくんの肌はお姉ちゃんには及ばんけど綺麗じゃから、最低限しか塗っとらんよ」


この悪魔め! おかしいと思ったんじゃ! マスカラだけのはずなのにやたらと顔全体に塗り込んでるから何かと思えば。この姉は最初から俺の顔で遊ぶつもりだったんだ! 盛大に引き攣る顔で文句の一つでも言ってやろうと口を開けば、何か柔らかいもので優しく顔を叩かれる。ファンデーションだろう。俺に口を開かせないように無理やりだ。ああ、俺があそこで自分から実験台になるなんて言わなければ…いや、それ以前に姉から呼ばれた時点でこの運命は決まっていたんだ…。もうここまで来たら姉が絶対に引かないし、むしろ抵抗した方が酷くなる事を分かっているので無駄な足掻きはやめて早く終わる事を祈る事にする。姉の弟で学んだことは、諦めも肝心。出来れば諦めたくないがあの無表情はもう御免だ。それからはポーチの中からかなりの数の化粧品が出て来て、それ全部を俺の顔に使った。最後に唇がべたべたした所で終わったようだ。俺は力の抜け切った状態で呆然としながら姉の顔を見つめる。



「ぶふっ! お、お姉ちゃんが2人おるっ!」



そう言って俺の前で吹き出した瞬間、やけに間抜けな電子音がリビング内に響き渡った事で姉の手へと視線を向ける。そこには携帯を構えこちらへと向けている姉の手が。数秒後、はっ気づく。写メられた!! 


「な、何しとんじゃ!!」

「男前な顔が美人さんになったんじゃから、これは撮っとかんと損じゃろ」

「っ!!」


言葉も出ないとはこの事だろう。俺は自分の弱みとなる事をまた一つ姉へと与えてしまったのだ。というより自分のこんな間抜けな姿をこの世に残すことになるとは! こんなの誰にも見られたくない、とそう思った瞬間、



「ぶふっ!」



姉とまったく同じように吹き出す音が聞こえる。音の発信源に目を向けると、姉の後ろで学校から帰って来たであろう弟がリビング入口でこちらを見ながら吹き出していた。そしてその音を合図に姉と弟はこちらを指さしながらさも愉快と言わんばかりに爆笑し始める。余程苦しいのか目の端には涙が浮かび上がっていた。俺は微かに震える体でそれを見つめる。



「ね、姉ちゃんが2人いる! 1人増えた!!」

「美人なお姉ちゃんが2人も出来て、お前さん幸せだのう!」

「ぶふふっ、で、でも本物の姉ちゃんの方が美人だよ!」

「お前さんは本当に良い子じゃ!」

「ぶっ、ふふふ、あはははははっ!!」

「ふっふふっ、あははははっ!!」

「………」





家出したい。







お姉さまとまーくん




ありがとうございます!



[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ