中編

□全てばれましたけど、それが何か?
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付き合い始めて2ヵ月、とうとう明篠の本性がばれた







全てばれましたけど、それが何か?







学年を問わずその外見と中身は学校中に知れ渡っていた。しかし蓋を開けてみれば、人の話を聞かない、自分勝手な行動、自分が1番だというその絶対的な自信。そう自己中女なのだ。自分を中心に全ては回っていると本気で考えていそうな、とんでもないやつ。そんな性格がクラスの奴らにばれてしまった。事の発端は簡単、学校帰りに俺と明篠の会話を聞いていた奴がいたらしい。もちろんその言動は学校にいる時の姿とは想像がつかないぐらい、天地の差だ。この俺が明篠に告白されるまで気付かなかったぐらいだ。当然、俺たちの通常の会話を聞いたやつも驚いた事だろう。そしてそんな明篠の猫かぶりは学校中に知れ渡ったのである。


もちろん明篠の猫かぶりを知った女どもは怒り狂ったらしい。元々テニス部のレギュラーと付き合った女たちはそのファンたちに嫌がらせを受ける。しかし明篠の場合、猫かぶりをしている時の姿は誰もが認めるほどに完璧な女だった。それは俺との付き合いが始まってからも変わることなく、明篠なら仕方ない、とファンに言わせるほどに徹底していたのだ。しかしその完璧で非の打ちどころのない性格は、作られたものだったのだ。当然ファンもそれ以外の明篠を慕っていた奴らも騙された、と怒り出した。特にファンの怒りはとどまる事を知らず、猫をかぶり騙して仁王くんに近づいた最低女としてのレッテルを明篠に張り付けた。


そして今、レギュラーに近づいた女への制裁として、今回は全校生徒を騙していた、という大きな話になっている事もあり、堂々と女たちはB組に入り込み明篠を前に仁王立ちしているのである。


「明篠さん、今まで私たちの事騙してたんだって!?」

「見た人がいるんだからね!? 本性を隠しながら学校中の人を騙して、仁王くんを騙して! 信じられない!」

「明篠さんだから仁王くんの彼女に相応しいと思ってたのに、それが学校中を騙してた猫かぶり女だったなんて!」

「なんでもあなたの本性を見た人が、相当酷かったって」

「仁王くんが可哀そうよ! こんな性悪女に騙されていたなんて…」


明篠の前に仁王立ちした女どもが一斉に明篠を攻め立てる。それを合図にクラスの連中や、騒ぎを聞きつけドアから覗いている他クラスや、他学年までが明篠を攻め立てる。俺はそれを自分の席から眺めているわけだが止める気はまったくない。むしろあの自分中心の明篠がここまで周りから攻め立てられ、どうなるのかが気になる。逆切れして言い返すか? それともいつも自信満々のその顔を悔しげに歪めるのか? いっその事ここまでされたら泣き出すかもしれない。それを考えると笑みが止まらなくなる。そんな口元を頬杖をつくことで誤魔化した。続きが気になる。ああ、あいつが泣き出したら助けてやってもいいかもしれない。きっと物凄く悔しがるに違いない。別に人の泣き顔に興奮するとかそんな性癖など持ち合わせてはいないが、明篠は別だ。今までの俺はどちらかというと、明らかに周りを振り回し楽しんでいる側の人間だった。それが今となってはあいつに振り回される側となっている。もちろんあいつと一緒にいる事で俺を諦めた女たちがいたり、面倒事が減ったりと助かっている面もある。むしろそのために一緒にいる。だが、それとこれとは話が別だ。いつものあの自信満々で澄ました顔がそれ以外に変わる姿を見てみたい。それぐらい望んだって罰は当たらないはず。しかし明篠はどこまで行っても明篠だった。


「騙されたって何が?」

「…、…な、」

「何を騙してたっていうの? 別にあなたたちに迷惑をかける行為をした覚えはまったくないんだけど?」

「っ、め、迷惑とかそういう話じゃなくて! 本当はそっちが素なんでしょ!? それを今まで隠して私たちに優しい振りをして、やっぱり騙してたんじゃない!」

「そうよ! そうやってみんなを騙して、良い子の振りして仁王くんに近づいたんでしょ!?」

「今までの明篠さんは本当に良い人で優しくて、そんな人だから仁王くんとも釣り合うし、私たちも文句なんてなかったのに! それを狙って今まで猫かぶってたんでしょ!?」

「許せない!」

「そうよ。猫かぶってたのよ」


そう言って明篠は目の前で自分を攻め立てる女たちよりも、それはそれは偉そうに腕を組み、見下し開き直った。周りの奴らはその初めて見る明篠の威圧的な姿に唖然としている。もちろん今まで強気に攻め立てていた女たちもだ。しかし明篠が開き直ったことで自分たちの有利を再確認したのか、その顔に笑みが浮かぶ。だが今までこの俺を散々振り回して来た女だ。ちょっと前まではあいつの悔しそうな顔を見たがっていたが、ここまでくればあいつのいつもと変わらなぬ態度を見て、それが無理だと分かる。伊達にあいつと2ヵ月も付き合ってはいない。そしてここからあいつの仕返しが始まった。


「そう、猫をかぶっていたの。騙していたんじゃない」

「は? 同じ事じゃない!」

「だから何を騙していたの? 何も騙してないじゃない。ただこの性格を表に出さないで接してただけでしょ?」

「だからそれが、」

「自分をより可愛く見せようとする事がそんなにいけない事なの? 本当に言いたい事だって時には傷つく事になるじゃない。だから言わないで当たり障りなく接する事がそんなにいけない事なの?」

「っ、」


全ての者が明篠に圧倒されている。


「それが八方美人? 猫かぶり? なんで? むしろ私はこんなに優しくて良い子だと思うんだけど」

「何を、」

「あなただって女子と男子の前じゃ声の高さが違うじゃない」

「なっ」

「そこのあなたは他校に彼氏がいたのに、誰とも付き合ってないって言ってたじゃない」

「っ、な、何で、」

「これも猫かぶりでしょ? これが本当に騙してるって言うんでしょ?」


今まで強気に明篠を見ていた女たちが一斉に焦りをその顔に浮かべる。そんな女たちを見て明篠は鼻で笑った。見ているこっちがイラっとくる笑みである。


「それに誰が私と仁王くんが話しているのを見たのか知らないけど、私と仁王くんの会話で私が猫かぶっていると全校生徒が知ったのなら、仁王くんだって元から私が猫かぶっていたと知っていて当然じゃない?」


その言葉と同時に、ここに来て視線が俺に集まる。しかし明篠の言葉は止まらない。


「仁王くんに告白した時、私は猫かぶってなかったの。だから仁王くんはこっちが素だって知ってるわよ。それでも仁王くんは私と付き合ってるの」

「え、うそ……」

「嘘じゃないわよ。そもそも仁王くんのファンだかなんだか知らないけどね、なんで仁王くんと付き合うのにあなたたちの同意が必要なのよ。可笑しいじゃない。仁王くんはみんなのもの? 抜け駆けは許さない? そうやって自分が告白して振られるのも、自分以外の誰かが仁王くんと付き合うのも怖いから、逃げてるだけじゃない」

「っ!!」

「そうでしょ? だから裏で仁王くんの私物を盗んだり、仁王くんに近づいた女たちを潰したりして満足してるんでしょ? やだやだ。そっちの方が十分、騙してるって言うんじゃない?」

「そんなことっ、」

「よく聞きなさい。仁王くんが好きなら裏でこそこそしてないで、正々堂々と仁王くんに告白すればいいわ」


その言葉に明篠の目の前にいる女たちは目を丸くする。もちろん俺もだ。というか明篠は俺の私物が盗まれていたり、女が裏で色々やっている事も知っていたのか。あんな自己中な性格だからか、自分の事以外に興味がないと思っていた。というか仮にも付き合っているという事になっているのに、他の女どもに彼氏の告白を許す寛大な彼女がどこにいる。しかし明篠は俺や周りの奴らの考えの斜め上を行く。


「仁王くんが決める事だもん。仁王くん自身が彼女にしたい子を選べばいい。まぁ、こんなに可愛くて、頭も良くて、優しい、寛大な彼女は私しかいないんだけどね」


そう自信満々に俺に向けって言い放った。



おい。俺がここで明篠とは付き合ってるふりだって言ってばらしてもいいんだぞ。



………はぁー、しかし明篠の目の前にいる女たちや今まで話の行く末を見ていた女たちは、明らかに明篠の姿に怯んでいる。ここまでみんなの前で言われてしまえば、裏で色々とやっている事もなくなるだろう。ここにきて、大きな借りが出来てしまった。










口で勝てる人はいませんよ
(2014/01/13)

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