中編

□私の言う事が正しいの
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学校の行き帰りは送り迎え。その代り部活が終わるのを待っている彼女。

理想の恋人像?

見た目だけな。







私の言う事が正しいの







明篠から告白されて1日で、噂は瞬く間に広まった。


確かに告白は煩わしかった。他にも彼女面して近寄ってくる女ども。1年や2年の時はそれなりに告白してきた女の中で遊んでいた時期もあった。だが幸村が倒れ部活中心の生活になった。あの時は幸村や部活の事ばかりでそれ以外の事は考えられなかったし、それは幸村が戻ってきて全国大会が終わった後も変わらなかった。今は女と付き合ったり遊んだりするよりもテニスをやっている方が楽しい。テニス部の連中といる方が気を張らないでいられる。だからそれ以外はいらなかった。しかしそんな事は知らない、とばかりに告白してくる女たち。自分の事を想ってくれるのはまぁ、嬉しい。だがそれ以上に大切なものがある。テニスを捨てて女と付き合うなんて考えられなかった。

そんな時に明篠の告白。いや、あれは告白なのか? あいつの言う通りあいつと付き合っていれば告白も減るだろう。ストーカーに近い行為も人の顔だけ見て近づいて来る女どもも、そういった事も少なくなるかもしれない、そう思った。しかし結局は見せかけとはいえ女と付き合うのだ。鬱陶しく感じるのは目に見えている。これ以上の面倒事は御免だと思い断ろうとした。した、のだ。しかしそれを察したのか、何も考えていないのか、止まらないマシンガントーク。この俺が押された。まったくもって人の話を聞かない。会話がかみ合わないとはこのことである。結局は押し切られる形で付き合う事になってしまった。とりあえず、面倒なことになったらその時はすぐに別れればいい、そう思った。

まぁ、見せかけとはいえ付き合うという事はそれらしいことをしないと付き合っているようには見えない。それではまったく意味がない。そんなわけで登下校の送り迎えが決まったのである。幸い、学校付近へと向かうバス停近くに家があるため通り道であるし、苦ではなかった。ちなみに全国大会が終わったとはいえ、高校もこのメンバーでテニス部に入部するため、部長という立場は赤也に移ったがそれは形だけで、今も3年は部活に参加している。そのため下校時は遅くなると言ったのだが、あいつは生徒会に入っているためその仕事をしているから別に平気だ、と言ったので帰りも一緒になってしまったのだ。そんなわけで告白されて1ヵ月、見た目はなんとなく付き合っているように見えているようである。





「ねぇ、ココアが飲みたい」

「…コンビニ寄るか?」

「うん」


唐突な明篠の言葉。もう慣れた。とりあえず付き合っている、というように見えるよう登下校中に繋いでいるお互いの手。その手を軽く引っ張り目の前に見えるコンビニへと入っていく。11月も後半、寒い場所から暖かい場所に入ったため繋いでいない方の手が痺れて痛い。そのまま温かい飲み物が売られているコーナーへと向かって行く。繋いでいた左手をするりと離しココアを掴んだ。まだ冷たさの残った右手がどんどん暖かくなる。それを両手で持ち直し手のひら全体を暖めようとした所で横に明篠がいない事に気づく。…まったく、あいつは……。そのままお菓子コーナーへと足を運んだ。思った通り奴がいる。


「仁王くん、遅いよ」

「遅いって…お前さんがココア飲みたいつったんじゃろ」

「ねぇ、このチョコパイとチョコクッキーどっちがいいかな?」

「……チョコパイ」

「やっぱりどっちも買お」

「なんで聞いたんじゃ…」


明篠はその言葉の通り、チョコパイの袋とチョコクッキーの箱を摘まんだ。それを左腕に抱え、俺が暖を取っていたココアを右手で掴みレジへと向かった。その後を俺は付いて行く。店員の気の抜けたお決まりのセリフを聞き、カウンターへと菓子類を置いた。こいつは俺に金を払わせない。今までの女たちは男が出して当たり前、という態度だったために最初は少しだけ驚いた。俺が財布を出しても気にせずその横からさっと出してお会計を済ませてしまうのだ。出さなくていいのか、と聞いたら自分で食べるんだから自分で出して当たり前でしょ、馬鹿じゃない? といつもの上から目線で言われた。どこまでも自己中な女だと思っていたからその時は言葉も出なかった。まぁ、本当に付き合ってる訳でもないから別にいいのか。


「はい」

「………」


目の前に差し出されるココアを抜いたお菓子の入っているレジ袋。なんで自分で食べるからとお金は出すのに、自分で持たない。しかしここで何を言っても無駄だとこの1ヵ月で学んだため下手なことは言わない。そのまま大人しく受け取った。明篠は右手に持ったココアの蓋を開け半分ほど飲み干した。この良い飲みっぷりをこいつに恋してる男どもに見せてやりたい。そして満足したのか今度は蓋を閉めた後、俺の持っているレジ袋に放り込みチョコパイを取り出した。袋を破き中身の袋を2つ取り出す。そして片方を俺の前に差し出した。


「食べたいんでしょ?」

「…甘いもんはあんまし好かん」

「さっきチョコパイ食べたいって言ったじゃん」

「お前さんがどっちがいいか聞いたんじゃろ」

「ビターだから食べれるんじゃない?」

「俺の話、聞いとるか?」

「まったくもう。好き嫌いしてんじゃないわよ」


そしてまるで手のかかる子供を相手にしているかのような態度を繰り出す。その顔は呆れています、と言わんばかりの顔だ。おい、その顔をすべきは俺だろ。しかし、もう何を言っても無駄みたいだ。目の前に差し出されているチョコパイの袋を摘まんで受け取った。そのまま袋を破きチョコパイを一口、口の中に飲み込んだ。


「美味しい?」

「まぁまぁ」

「はぁー、我が儘だね」

「お前さんには絶対に言われたくなか」

「んー…あっちのメーカーのチョコパイのが美味しいや」

「………」




まったくもって自分を中心に世界が回っているらしい。


詐欺師と言われ、仲間内からも一目置かれる俺がなんて事だ。


こいつと会話を成り立たせる方法はないものか…。










会話が成り立たないのは通常運転
(2014/01/10)

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