中編

□返事は聞いてません
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「私と付き合って欲しいんだけど」




腕を組み仁王立ちする目の前の女。もちろん身長は俺の方が高いため、女はそんな俺を見上げている。それなのに、見上げているはずなのに、こんなにも見下されているように見えるのは、何故だ?


こんなに上から告白されたのは初めてである。







返事は聞いてません







「私ね、3年になってから急激に告白されることが増えたのよ。今までも十分多かったんだけどね、もうすぐ卒業だからかな? 後輩からの呼び出しが増えるわ増えるわ……」

「………」

「もちろん私が可愛いから仕方ないんだけどね、でも流石に多すぎっていうか」


そこまで話してはぁー、と深い溜息を吐いた。いや、溜息吐きたいのは俺なんだが。どんなに上から目線だろうが今は告白をされていたはずだ。それなのに何故いきなり身の上話が始まる? 確かに目の前にいるこの女は10人中10人が可愛いと言うだろう。丸井や赤也もそんな事を言っていたし、ただ立っているだけなら他の女など比べ物にならない。そう、ただ立っているだけなら。目の前に立っている女、明篠千佳。同じクラス、とても優しくて怒っている所など見たこともない友達想いな子、と言われているのである、この目の前で仁王立ちしている女がである。何が優しい友達想いだ。そんな事言った奴、今目の前で土下座しろ。


「ほぼ毎日、昼休みや放課後に呼び出されててね。想いを伝えるのはいいんだけど私はその思いに答えるつもりはないし。そう伝えても諦める訳でもないみたいだし、告白が減る気配もない」

「………」

「ちょっと、聞いてるの?」

「…ああ、聞いとる」

「それでね、もうこうなったら誰かと付き合っちゃった方がいいのかと思ってね。そこで選ばれたのが仁王くん」

「…ん、………ん?」

「仁王くんも女の子たちから沢山、告白されてるでしょ? でも誰とも付き合ってない。付き合う気がないんでしょ?」

「まぁ、」

「困ってるんでしょ?」

「いや、」

「私も困ってるのよ」



誰かこいつに言葉のキャッチボールを教えてやってくれ。この目の前の女は人の話を聞く気がないらしい。Yes or はい。結局は俺の意見はいらないのだろう。女、千佳は今まで組んでいた腕をとく。そのまま右手を腰に当てた。どうでもいいがなんでこんなにも偉そうなんだ。


「そんなわけで私たちが付き合えば丸く収まるのよ。仁王くんは顔が良いから私の彼氏として相応しいし、逆に仁王くんの彼女として私はまったくもって文句のつけようもない」
「…自分で言うんか……」

「私への告白も仁王くんへの告白もなくなる。お互いの困りごともなくなるわけよ。こんなに素晴らしい事はないでしょ?」

「こいつ本当にB組の千佳か?」

「さぁ、今日からよろしく。こんなに可愛くて頭も良い完璧な女の子が彼女で幸せものね、仁王くん」

「誰か通訳連れてこい」




それが俺と明篠千佳の出会い。










押され気味仁王くん
(2014/01/10)

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