短編

□詐欺師のお姉さま 2
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お題で「弟から10題」お題配布元:SWEET DOLL




01 年上の姉


俺には姉と弟が1人ずついる。弟の方は同性という事もありそれなりに仲も良いが、問題はもう片方の姉である。認めたくないが俺よりも先を読むことに長けており、その話術で俺を巧みに振り回すのだ。テニス関係の奴らには敵に回すと恐ろしい詐欺師、と言われているこの俺をだ。


「まーくん、お皿ー」


ほら、また向こうで姉貴が呼んでいる。



02 一人で出来る


今日は両親と弟の帰りが遅いらしい。もちろん俺に料理が出来るはずもなく、こういう時は姉が作るのだ。俺は食器棚から大きめの皿を取り出しテーブルに置いた。きっとまた何かしら命令されるだろうと思い、椅子に座りながら姉貴がフライパン片手に料理を作っている姿をぼーっと眺める。今は背を向けていて見えないその顔も俺に似て(というより俺が似たのか)、少しつり気味の目元が特徴的で高等部では美人だなんだと人気だ。まぁ、確かに身内の贔屓目なしでその顔は整っている。これで優しくて俺の宿題なんかを手伝ってくれるオネーチャンなら最高だったのに、そう思いながら深い溜息をついた。


「なんじゃそんなに深い溜息つきおって。そんなに野菜炒めと野菜スープが嫌だったんか?」


そう言いながらにやり、と効果音がつきそうな笑みを浮べフライパン片手に振り返る。そのままフライパンの中身を菜箸で皿に盛っていく。しかしそこでん? と動きが止まる。今なんて言った? 野菜炒めと野菜スープ?


「なんで母さんがいない時まで野菜ばっかり食べなきゃいかんのじゃ!」


肉は好きだが野菜は嫌い。野菜ばかり避けて食事をとっていたら倒れた。そんな経験もあり俺の両親と幸村、真田、柳は俺に無理やりにでも野菜を食べさせようとする。もちろん体調を気遣ってくれてるのは分かるし、そんなんでテニスが出来なくなっても嫌だ。そんなわけで嫌いな野菜も我慢しながらそれなりに毎日食べているのだ。しかし今日は両親がいない。一食ぐらい野菜を抜いたって死なん。姉貴は野菜も食べれるが俺と同じで肉が好きだし絶対に肉が出ると思ってた。それなのに!!


「オネーチャンが頑張って作った料理、いっぱい食べるんじゃよ」


そして白々しくそんな事を言い、にっこりと満面の笑みを浮べた。こいつは俺の心配をして野菜を食べさせようとしてるんじゃない。嫌がらせだ!

そんなわけで俺は1人で料理が出来るように猛特訓するのだった。それ以降、両親がいない時は姉貴の代わりに俺が作る。え、もしかしてこのための野菜料理だったんか?



03 お下がりの服


「まーくんまーくん」

「なんじゃー」

「これ私にくれんかー?」


そういって取り出したのは俺のパーカー。黒字に金の刺繍で英語が入っている。それなりに高かったパーカーだ。そういえば小さくて着られなくなってしまい、タンスの奥で眠ったままだった気がする。一体どうやって見つけたんだ。というか俺のタンスを漁ったのか…。しかし高かったのは事実、もう着られなくなってしまった事もあり着たいなら別に構わない。そのデザインなら女が来てても平気だしな。


「別によかよ」

「ありがと。お礼にこれやるぜよ」


その言葉とともに視界が真っ暗闇に包まれる。どうやら姉貴が俺のパーカーとは別に何か隠し持っていたらしい。どうやら服のようだが、それを俺の頭に被せたおかげで視界が奪われた。


「ぶふっ!!」


隣でテレビを観ながら俺たちの会話を聞いていたらしい弟の、吹き出す音が聞こえた。なんじゃ、と呟きながら頭に乗っている服を掴み取る。視界に今まで被っていた服を目に入れた瞬間、床に叩き付けた


「着れるわけないじゃろ!!」


姉貴と弟は、俺が床に叩き付けたワンピースを指さし涙を流しながら笑い続ける。



04 今日はなんの日


「今日はなんの日じゃー?」


笑顔でそう問いかける姉貴。はて? 誰かの誕生日でもなければイベント事もなかったように思える。怪訝な表情を浮かべ姉貴を見ればその笑みはより一層深まった。


「なんじゃ、わからんのか?」

「…………」

「えーまさか本当にわからんの? うわー、まーくんってば酷いのー。オネーチャン泣いちゃいそうじゃー」


そう言いつつもその顔には悲しみの欠片もない。腹立つ顔じゃのー。しかし姉貴は言うだけ言って満足したのかそのまま自分の部屋へと向かって行く。え、結局なんの日だったんだ? それから俺はその言葉の意味を数日考えていたのだが結局分らず直接本人に聞いてみると、姉貴曰くなんでもない普通の日だったらしい。なんじゃそれ!! 


「まーくんの思い悩む顔、それはそれは面白かったナリ」


平手かましてやりたい。



05 小さい頃は


「はぁー、小さい頃のまーくんは女の子のように可愛かったのにのー」


お菓子片手に昔のアルバムを漁る姉貴。どっから出してきた、という言葉がまっさきに浮かんだが愚問だろう。姉貴にかかればそんなの朝メシ前。アルバムのページを捲りながら時折その顔を愉快だと言わんばかりに歪める。一体いつの時の写真だ、そう思いながら姉貴の後ろに回り込み手元を覗き込む。


「ほら、可愛いじゃろ。私のワンピースを着たまーくんは」


絶望した。



06 身長差


「おーおーまーくんの成長期はいつまで続くんじゃ」

「まだ伸び続けるぜよ」


俺が3年に進級したての時に持って帰って来た健康診断の結果を見ながらそう呟いた姉貴(だからどこから持ってくるんだ)。中学1年までは姉貴の方が高かったがそれ以降、俺の身長はどんどんと伸びた。どうやらそれが不満らしい。というか姉貴だって女にしては高い身長だし、むしろ今の俺より高かったらそれはそれで嫌だ。そんな俺の横で姉貴は、まだ結果の紙を見ながらぶつぶつ呟いている。そんな姉貴を見下ろし、その身長差と不満げな顔に少しだけ優越感が湧いた。



07 鬱陶しい


「なぁ、お前の姉ちゃんすっげー美人だよなー」

「羨ましいッス。俺の姉ちゃんもあれぐらい美人で優しかったらなー」

「優しいとか幻聴が聞こえたぜよ」


俺の姉貴が優しい? きっと赤也の脳みそは腐り落ちて正確な判断が出来なくなってるんだな。そうか、だから赤点ばかりなのか。そんな事を思いながら目の前の丸井と赤也に視線を向ける。


「だって俺この前、先輩の姉ちゃんにたまたま会ったんスけどそん時に、怪我しないように頑張ってねって! うちのガサツな姉ちゃんとは大違いッスよ!」

「俺なんてコンビニ前でお前の姉ちゃんに会った時、チョコくれたぜぃ!」


その女は一体誰だ? 俺の姉貴を語る宇宙人か何かか?


「いいないいなーお前の姉ちゃん!」

「俺の姉ちゃんと交換しましょうよー!」


とりあえずこの鬱陶しい馬鹿どもをどうにかしなければ。



08 弟としてのプライド


「そんなん猫かぶってるだけじゃき」

「えーでも優しかったですよ」

「物くれるんだから良い姉ちゃんじゃんかよぃ」


丸井の良い奴の判断は物をくれるか、くれないか。判断基準がおかしい。というかこの2人に家での姉貴を見せてやりたい。俺がどれだけあの姉貴に振り回されていることか…………。いや、そんなのばらしてどうする…。今までの姉貴の悪行をばらすという事は、俺の恥も一緒に晒すという事だ。


俺はいまだにうるさい2人を背にしながら、悔しさを胸にそっと口を閉じた。



09 追う視線


何か、きっと何かあるはずじゃ。あの姉貴にだって弱点は必ず。そう思いながら、ジュース片手にテレビを観ている姉貴にちらりと視線を向けた。15年間生きて来て、一度も見たことのない姉貴の弱点を探す。もう俺を振り回せんくらい衝撃的なやつを見つけてやる。そう意気込むものの、そもそも15年間見つけられてないのにいまさら見つかるのだろうかと若干の不安がよぎる。いやいや、俺だって姉貴の血をひいてるんだ。学校では幸村に悪魔をも騙せる男と言われているのだ。これぐらい出来なくてどうする俺。



10 いつまでも敵わない


「まーくんまーくん、じゃーん」


そう言って俺に紙袋を渡す姉貴。何なんだ、そう思いながら疑いのまなざしを姉貴とその紙袋に向ける。しかしそんなこと関係ないと言わんばかりにその紙袋を俺に押し付ける。開けたくない…。きっと俺をからかうための何かが入っているのだ。その手には乗らない、と口を開こうとしたところで、


「早く開けてみんしゃい」


と、先に釘を刺される。こうなったら姉貴は絶対に引かない。姉貴と見つめ合う事数秒、結局は俺が負けるのだ。仕方ない、とばかりに紙袋の口をを止めているテープを剥がす。そこで何かに気づく。この紙袋は、


「…パーカー」


そう、俺の欲しかったパーカーだ。前に姉貴にあげたパーカーと同じメーカーで、小さくなって着れなくなった代わりにこれを買おうと思っていたのだ。しかし新作だし、人気のあるメーカーだし高いのだ。正月も誕生日も先だし、と諦めていたパーカーが今俺の手の中に!


「全国大会3連覇は逃したが準優勝おめでとう、まーくん」

「………ありがとう」

「どーいたしまして」


数日前から姉貴の弱点を探して見返してやろう、と決意していたこの心はいつのまにかどこかに旅立ってしまったようだ。あーもう! これだから姉貴には、いつまでも敵わない!










こんな仁王姉弟の日常。
(2014/02/5〜2014/06/16 Clapにて)

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