短編

□あなたの姉・妹・従妹・幼馴染になってみた! 2
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1周年企画作品

あなたの姉・妹・従妹・幼馴染になってみた!
(ジャッカル・丸井・柳生・仁王)






ジャッカル 従兄妹 同い年




「よージャッカル。久しぶりー!」


そう言って片手を上げながら俺を出迎える、従兄妹の結衣。母さんの妹の娘だから、純日本人だ。夏のくせに全然焼けていない真っ白な肌を惜しげもなく晒している。従兄妹とはいえ異性なんだから少しぐらい恥じらいを持てよ、なんてこの頃思ったりする。とはいえ、本当に久しぶりに会ったのだから小言は後回しにして、先ほどの挨拶に答えた。


「2ヵ月ぶり、ぐらいか?」

「夏休みの始めは色々あって来れなかったからね。全国大会はちゃんと観に行くよ!」

「熱中症に気をつけろよ」

「お前もな」


なんて言いながら肘で突っついて来る。というより、めり込んだ。痛ぇよ! くだらないやり取りをしながら、結衣の後ろを付いてリビングまで移動する。いや、俺の家なんだけどな。そんな事を思いながら、結衣の一つに結んでいる髪の揺れを見つめた。リビングに入ると涼しい冷気が俺たちを迎える。汗が少しずつ引いて行くのを感じる。キッチンを覗いても母さんがいない所を見ると、買い物にでも出たのだろうか。そのままテニスバッグを降ろして、テレビ前のカーペットに座り込んだ。少しすると結衣の飲みかけであろうグラスと、同じものが置かれる。礼を言いながら、有り難く受け取った。何の変哲もないただのお茶だが、この真夏日の中を歩いて帰って来た身としては、これ以上美味いもんはない。


「毎日遅くまで大変だねー」

「今日は早く帰って来た方だけどな」

「運動部半端ない」


引き攣った顔の結衣。結衣はそこまで運動神経がよくないからな、なんて言えば全力で背中を叩かれる。だから痛ぇ!!


「前に試合見た時も、人間技じゃないと思ったもん」

「そうか?」

「やってる方は分からないんだね…。というかジャッカルたちも凄いけど、それを応援してる周りの女子たちも凄かったわ」


まぁ、確かに、よくあんな炎天下で応援できるもんだよな。特に幸村や仁王が試合している時の声援は、余計に力が入っている。それでもあまりのうるささに注意が入り、結衣が来た頃よりは静かになったのだ。しかし結衣は俺の顔を見て、にたりと笑う。


「いやー、部長さんとかあの銀髪の人は規格外だけど、ちゃんとジャッカルへの声援もあったじゃーん! 彼女は出来たかー?」


わざとらしく口元を隠しながら笑ってはいるが、楽しんでいるのがばればれだ。出来る訳ねぇだろ、と言いながら結衣の頭を小突く。まったくもって人をからかう性格は変わっていないようだ。それでも笑みを浮べたままなのだから、相当俺でからかうのが楽しいようだ。いつもはこのまま何回かちょっかいを出して来て、俺が流すんだけど、たまにはこいつの驚いた顔も見て見たいものである。


「まぁ、俺の好きな奴は今俺の目の前にいる奴だし、お前がいいって言うなら今この瞬間に彼女が出来んだけどよ」


その時の結衣の顔は、一生忘れられないだろう。俺は真っ赤な顔で唖然としている結衣の方へと身を乗り出した。さぁて、そんな素振りをまったく見せなかったので気づいていなかっただろうこいつに、数年間の想いをぶつけてみますか。






丸井 幼馴染 同い年


リビングに顔だけを出し、挨拶する。その後は何度も通いなれた廊下を歩き、階段を上る。突き当りを左に曲がれば、結衣の部屋だ。部屋の主がいない事は分かっているので、ノックもしないで勝手に入る。右手でスイッチを探り電気を点けると、室内は明るくなった。そのままベッドに寄りかかり、頭だけふちに乗せて天井を見上げた。ちゃんと帰ってくるかな、あいつ。流石にあの時は言い過ぎたもんな。


「はぁー…」


深い溜息をつく。3日前に珍しく、結衣と喧嘩した。いや、喧嘩なんてよくするし、いつもの事だ。そして決まってあいつが謝るんだ。向こうが悪い時は当たり前だし、俺が悪くてもあいつは謝る。きっと面倒だからだ。俺が折れないのはきっと小さい頃からの付き合いで分かってるし、結局は結衣が折れるんだ。それで次の瞬間には、普通に会話している。あの時も、そんな感じで終わるんだと思ってた。でも違って、3日前は本当に言い過ぎたんだ。思ってない事を沢山言った。流石のあいつも切れて、言い返す。まぁ、そこで確実に俺が悪いんだから俺が謝れば良かったのに、何故か逆ギレした俺がまた言い返してた。次の瞬間、結衣は俺が見たこともないような無表情で、この部屋を出て行った。きっと外に出たのだろう。俺は唖然とした。あんな結衣の顔、初めて見た。一気に血の気が引いた。それでも俺は千佳なら許してくれると思ってたんだ。我ながら馬鹿だと思う。その後、とりあえず自分の家に帰った。まぁ、帰ったも何も隣通しなんだが。そんで少し経ったらまた、あいつが来るか、電話がかかってくると思ったんだ。そうやってあいつからの接触を待って、3日。


「馬鹿だろ、俺」


なんであいつから謝るのを待ってんだよ。明らかに俺が悪いだろ。なんであの時待ってなかった。探しに行かなかった。連絡しなかった。いや、なんだかんだ言って、俺がどんなことしようと絶対に許してくれると思ってた俺が悪いんだよな。だってあんな無表情初めて見たもん。めっちゃ怖かったもん。それだけ怒ってたって事、だよな。学校では視線すら合わねぇし。というか3日も話さなかった事って、ほとんどなかったよな。小さい頃からお互いの家を行き来してたし。そこまで考えて頭を抱え込む。


「っ!!」


俺って3日間、あいつと会わなかっただけでこんなに沈んでんのかよ! 俺があいつと接触しないでいられる期間は3日という事か!? 恥ずかしさで顔を上げられなくなった。人の部屋で勝手に転がり悶える。だって、そういう事だろ? いつもは馬鹿みたいに言い合ったり、くだらない事したり、なんとく誕生日が俺の方が早いから兄ぶったりしてたのに! ちょっと会わなかったからって、こんなに寂しくなるとか!! 恥ずかしい!! やっぱりごろんごろん転がって、悶えて、ベッドに頭をぶつけたら、少しだけ冷静になれた。…………。これが小さい頃からずっと一緒にいる故の兄妹にも似た気持ちなのか、それとも、あの、ソッチ、の意味が入った気持ちの感情なのか、そんなの分からない。でも3日間合わないだけで、こんなに寂しくなるなんて。そんな事を考えていると少しずつ瞼が降りてくる。そういえば喧嘩してから気になって、ちゃんと寝れなかったんだよな…。そんなちゃんとした意識があったら恥ずかしい事を考えながら、少しだけと自分に言い訳して、そのまま眠りに付いてしまった。


「人の部屋でばったんばったん騒いでたと思ったら、もう寝てやがる」


だからそんな結衣の言葉と、優しい笑顔を見逃すことになってしまう。






柳生 妹 小1〜3年




「ひろくん、ひろくん、あのね」

「どうしました?」


妹の結衣が小走りで此方に駆けてくる。その手には櫛と鏡、可愛らしい飾りの付いた色とりどりの髪ゴムが数種類握られている。どうやら自分の部屋に置いてあったものを全て取り出して、リビングまで来たらしい。その顔にはきらきらとした笑顔が浮かんでいる。そのままソファに座っていた私の足元に座り込み、手に持っていた物をテーブルへと置いた。


「これからお友達と遊びに行くの。ひろくん、結んで!」


そう言いながら私へと背を向けた。それほど遊びに行くのが楽しみなのだろう。此方をちらちらと振り返りながら、どの飾り付きのゴムにしようかと笑顔で選別している。そんな可愛らしい妹の姿にこちらまで顔に笑みが浮かび上がるのが分かる。そしてテーブルに置いてある櫛を手に取り、自分とよく似た明るい茶の髪を梳いた。


「どんな髪型がいいですか?」

「んーとね、前に一緒に観たテレビに出てた女の子のがいい! 耳の所から編み込んでね、後ろで一つに結ぶんだよ!」

「分かりました」


それまでにどの髪ゴムにするか選んでおいて下さいね、という言葉に元気のいい返事が返ってきた。私は以前に結衣と一緒にテレビを観た時に出ていた子役の姿を思い出しながら、髪を弄っていく。これまでの自分なら精々一つか、二つに結い上げる事しか出来なかっただろう。しかし母がいない時はほとんど、兄である自分にべったりな妹を甘やかしてしまうのは、仕方のない事だと思う。結衣に強請られるまま四苦八苦しながら弄っている間に、ここまで出来るようになるとは自分でも驚くばかりである。


「これにしよっ!」


そう言って碧と透明の粒が光に反射して綺麗に光る飾りの付いた髪ゴムを、両手で掲げた。両耳付近から編み込んだ髪と、肩や背中にかかる髪を上の方で纏め上げる。そのまま結衣が両手で持ち上げている髪ゴムを受け取った。きらきらとした飾りが一番上に来るように調整しながら結び付けていく。目の前にある鏡からは頬に少しのピンクをのせた、結衣のとても可愛らしい笑顔が見える。


「はい、出来ました」

「うわーうわー! ありがと、ひろくん! ねぇ、かわいい? 千佳かわいい?」

「ええ、とっても可愛らしいですよ」


その言葉に結衣は飛び上がった。目の前ではたった今結い上げた髪がふわりと揺れている。こんな笑顔を見せられたら、どんなお願いだって聞いてあげたくなってしまう。そんな誰かに聞かれたら兄馬鹿だ、と言われそうなセリフを思い浮かべながら、次の部活休みには結衣と他の髪ゴムを買いに行くのもいいかもしれないなんて、やっぱり兄馬鹿な事を考えてしまった。






仁王 姉 高校2年




「まーくん、まーくん、まーくーん!」

「…聞こえとる」


リビングから聞こえてくる姉貴の俺を呼ぶ声に嫌々近づいて行くが、近づくにつれて独特の嫌な臭いが強くなっていく。うぇ、鼻が曲がりそう。よくこんな臭いの根源にいて、平気な顔をしていられる。そう思いながら顔には精一杯の嫌悪を浮べて、若干の距離をおきながら姉貴へと近づいた。しかしそんな距離などものともせず、赤い液体の入った小瓶と足をこちらへと突き出した。


「はい」

「………」


いやいや、はいって、おかしいだろ! 塗れってか、俺に塗れってか!? 精一杯の嫌悪は、盛大な引き攣りに変わっていた。姉貴はたった今塗り終わったであろう左手の爪に息を吹きかけ、右手で爪に触れないよう瓶を突きだしている。顔には嫌な笑み。これは脅されているのだろう。悔しいがいう事を聞かなければ、何をされるか分かったもんじゃない。俺は渋々と姉貴が持っている小瓶を、爪に触れないようにしながら受け取る。そしてソファから放り出されている姉貴の足元に座り込んだ。


「綺麗にな。それの後はトップコート。ほれ、これじゃ」

「………」


そう言って今度は透明な液体の入った瓶を渡される。それが人に頼む態度か、と心の中で舌打ちする。口には出さない。心の中で。俺は深い深い溜息をつきながら、最初に赤い液体の入った瓶の蓋を開けた。また気持ち悪い臭いが強くなった。そのまま姉貴の足を取り、端から順に塗っていく。はみ出した所は容赦なく指摘され、除光液を渡される。しかし4本目を塗る頃には失敗も少なくなり、自分でも自画自賛したくなるくらい綺麗に塗れた。


「さっすがまーくん。お姉ちゃんに似て器用じゃ」

「姉貴じゃなくて、俺も姉貴も母さんに似たんじゃろ」

「なんじゃー、小さい頃はお姉ちゃんの真似ばかりしおったくせに」

「思い出したくない過去!」


まぁ、確かにこの色々とごちゃまぜにした方言は、小さい頃に姉貴の真似をして身に着いたものだ。幼いころは何でも出来る姉貴が憧れでもあり、姉貴のやる事はなんでも真似していた気がする。恥ずかしい。しかしこの銀髪は姉貴のせいだ! 余ったからって小学生の頭を銀髪に染めるやつがあるか! いや、似合ってるんだけど。思ったより似合ってるからこのままなんだけど。というかここまでしてやってるのに、何故人の思い出したくない過去を穿り返す。悪魔だ、この女。そんな事を思いながらも作業の手は止めない。数分もするとトップコートとやらも塗り終わり、強烈な臭いを放っていた瓶の蓋をやっと閉める事が出来た。塗り終わった姉貴の足を見下ろす。初めてにしてはとてもいい出来栄えだ。姉貴も自身の足を見下ろす。


「おー、やっぱり赤にして良かった。私によう似合う」


まず俺への礼が先だろうが! そう思うも口には出さない。しかし先ほどの言葉通り、姉貴の白い肌に赤い爪がよく映える。悔しいがとても似合っているだろう。口には出さない。そして姉貴は足元から俺へと視線を移す。やっと俺への感謝の念が湧いたか。そう思いながら姉貴の言葉を待つ俺へと悪戯な笑みを浮べた。


「まーくん、お姉ちゃんのマニキュア係に決定!」


この足元に置かれている瓶の中身を姉貴にかけても文句は言われまい。きっとこの赤い液体が、姉貴の白い肌に映えるだろう!!










(2014/06/14)

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