短編
□三角関係改め、やっぱり三角関係
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「は? 好きな人に告白できない?」
「……」
「なーに告白前から振られる心配してんの? 男でしょ? 当たって粉砕してこいよ」
「いや、粉砕してどうすんだよぃ!?」
「こんな小さなことで悩んでる時点で振られるよ」
「お前! まじで悪魔だな!!」
そう言って丸井は、視線を窓の外へ向けた。私と丸井しかいない教室に聞こえるのは雨音だけ。なんだかよくわからんが、相談があると空き教室に連れて来られた。後ろの方で纏められている椅子に座り、話し出すのを待つこと数分。煮え切らない返事ばかり返してくる丸井に面倒になり帰る、と告げたところでやっと話し出したと思ったら好きな人がいるとのこと。おまけにまったく脈がないので告白できなくてどうしたらいいかわからない、ということだった。知らねーよ。そもそも丸井とは中学1年の頃から同じクラスだったのだが、最近になり席が近くなったことから話し始めるようになった。確かに近頃は仁王も含めて3人で話す機会も多く、時間が被れば放課後にご飯を食べに行くという事もある。だが恋愛相談なんてものしてくるとは思わなかったからびっくりだ。
「ていうかさ、なんで脈なしなんてわかるわけ? 告白してみないとわかんないじゃん」
「…そいつが仁王の事を好きだって話してるのを聞いちまった」
「じゃあ諦めれば?」
「はやっ!! でも仁王はそいつとは別の女が好きなんだよなー…」
「えっ、仁王って好きな人いんの!?」
驚きのあまり、目の前に座っている丸井の方へと身を乗り出す。
「片想いだけどな」
「仁王が片想いとかまじうけるんですけど」
「…お前、まじで悪魔だな」
だってあの詐欺師仁王が女に片想いだよ? 周りにいる女、全てを手玉に取りそうな顔と言動をしているのに1人の女に片想い? いいネタじゃね? まじ爆笑。明日、あいつの顔見たら笑いそう。あれ? だけどさ、
「なんであんたが仁王の好きな人を知ってんの? あいつが自分の好きな人教えるとは思えないんだけど。弱みとか見せそうになくない?」
「だって仁王のやつ、そいつと話してる時は普段の顔と違ぇしすぐにわかるぜぃ」
「まじで? 誰なの?」
「言うわけねーだろぃ」
そう言って丸井は不機嫌そうな顔になった。本当にめんどくせーな。思っている事が顔に出ていたのだろう。目の前の丸井はより一層不機嫌です、というような顔になる。それを見て今より一層めんどくせーと思う私。エンドレスじゃねーか。雨宿りついでに話を聞いてやろうと思ったけど、中々止みそうにないしさっさとこの話を片付けて帰りたい。一つ溜息をつき口を開く。
「あんたの好きな子が例え仁王の事を好きでも、仁王は違う子が好きなんでしょ? だったらまったくの脈なしじゃないじゃん。もしかしたら丸井の事を好きになる確率もあるかもよ」
「…どんぐらい?」
「2%ぐらい」
「低っ! それほとんど俺の事好きになる確率ねぇーじゃんかよぃ! しかもなんかリアルな数字、出しやがって!!」
「どうなるかわからないじゃん」
「それならもっと高い数字にしやがれ!!」
「いや、仁王から丸井に乗り換える子っているの?」
「お前実は俺の事嫌いだろぃ!?」
「…あーあ。うるさいなー…」
「赤也なんて可愛く見えるぐらいの悪魔だな!!」
はぁー、お前の後輩なんて知らねーよ。……仕方ない、ここは穏便に事を運んで納得させてやるか。
「…まぁ、あんただって仁王ほどではないけど女の子に人気じゃん」
「当たり前だろぃ!」
「仁王は見た目とか言動から遊んでそうなイメージだけどさ、あんたは彼女出来たら一途そうだよね。浮気とかしなさそう」
「そんなの当たり前だろぃ」
「後輩の切原だっけ? それ以外にも後輩たちから好かれてんじゃん。意外と面倒見いいもんね」
「…以外とか言うな」
そう言いつつも不機嫌を隠そうともせずに窓の方へと向けていた視線を、少しだけこちらに向ける。単純だな…ちらちら見てんじゃねーよ。
「勉強だっていつもやらないだけで、教えてもらえばちゃんと理解できてるし」
「…天才的だろぃ」
「……いつも騒いでるイメージだけど、空気はちゃんと読んでる。よく人の事を馬鹿にするけど、相手が傷つくことは絶対に言わない」
「………」
「ちゃんと考えるべき事は考えて行動してる」
「………」
「仁王の事を好きな女の子は多いけど、大半は顔で選んでる子ばかりでしょ? あんたが好きな子が、仁王のどこを好きになったのかは知らないけど、それでも仁王には仁王だけの、あんたにはあんただけの良い所があるんだからそれを見せないでどーすんの。どうせ振られるからって行動しないで諦めて、それで仁王と付き合ったら後悔するのはあんたでしょ? 振られるって思ってるならとことん行動してから振られて来いよ。あんたが行動してそれでも振られたんなら、その子は男を見る目がなかったんだね。その時は振られて正解だよ」
「………」
「…まだ降られるって決まった訳じゃないけどさ、それでも、どうしても振られて悲しかったなら慰めて上げるよ」
「………」
「あんたの良い所、いっぱい知ってる子だっているはずだよ。あんたはそんな子を一途に想って、そんでもって私に、振られる心配じゃなくて惚気話を持って来い」
「!」
うわー、私めっちゃ良い事言った。よくもこんなに長々と口が動いたもんだ。これでしばらくは静かになるだろ。リアルに惚気話を持ってこられたらウザいが、彼女が出来たらそっちに夢中になって少しは大人しくなるんじゃね? さーてと話が纏まった所で帰るか。そういえば確か仁王が4時間目にサボった所為で居残りさせられてたけど、もしかしたら帰り被るんじゃねーの。今、昇降口なんかで仁王と会ってこいつ大丈夫か? せっかく大人しくなったのに。早い所校舎出るか、そう思い丸井に視線を向けると何故か私の顔を凝視している。なんだよ、気持ち悪っ! と口を開こうとするより先に教室後方の扉が開かれた。
「…お前さんら、なにしとるん?」
げ、噂をすれば仁王。いつもの若干猫背で怠そうな立ち姿。そのままの姿勢で教室内に入ってくる。顔は良いけどなんでこんな奴が人気なのかわからん。
「あんたこそなんでこんな所にいんの?」
「帰ろうとしたら渡り廊下からお前さんらが見えた」
「だからって来るんじゃねーよ」
「…お前さん冷たいのぉ」
そう言って仁王はじとりとした目でこちらを見つめる。あんたの存在のせいで私は今まで面倒くさい状況だったんだよ、なんてそんな事言えるはずもなく、とりあえず机の上に置いてあった鞄を掴み取る事で誤魔化す。そこで赤い髪が視界に入り丸井の存在を思い出した。仁王が入って来てから一度も口を開いていない。仁王も様子の可笑しい丸井の姿に気付いたのか視線を向ける。
「丸井、お前さんどうし、」
「仁王」
仁王の言葉に被せるように口を開く丸井。視線は依然と私を捕らえたまま。さっきからこいつどうしたんだ? もしかしてまださっきの事をごちゃごちゃと考えているんだろうか。私がせっかく丸井なんかの恋愛相談に乗って、アドバイス所か丸井なんかの良い所を探して口にしてやったというのにまだ気に入らないというのか! これ以上私に何を言えってんだよ。めんどくせーな、本当にめんどくせーな! 仁王も仁王だよ。こんなタイミングで来るんじゃねーよ! あーあ、もう知らない。当人たちでやってくれよ。私は帰る。最初からそうしてればよかったんだ。そうだ、頑張った自分へのご褒美にコンビニでデザートでも買って帰ろう。そんで夕飯の後に食べるんだ。確か新作の、
「俺、お前と同じ奴を好きになっちまった」
「…は?」
「だからお前と同じ、相瀬の事好きになっちまった」
「………相瀬の事を? ………いや、いやいやいやいや、それ以前にお前さん、本人の前で何て事言ってくれとんじゃ!!!」
それは私のセリフだ。
三角関係改め、やっぱり三角関係
(え、丸井好きな子出来たんじゃないの?)(勘違いだった、今お前の事すっげー好きなんだけどどうしよう?)((ばれた、本人にばれた!))
こんなに口が悪くてヒロインと呼んでいいのだろうか?
(2013/09/14)