中編

□リセット 脱出方法
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脱出方法





しかし一体どうやってこの校舎内から出ればいいのだろう。窓が開かない事は把握済みだ。昇降口の玄関と職員室からの出入り口も同じ。此処まで来るときっと裏口や、非常階段も開くことは無いのだろう。それならいっその事、窓硝子でも割ってみようか。明日の朝には大事件となっているだろうが、こんな所に閉じ込められるぐらいならそっちの方がましだ。しかしそんな提案も赤也の、椅子を投げつけてみたけど駄目だったですよ、という言葉にあえなく消えた。というか赤也、椅子投げつけたのかよ。気づいて、真田と柳生がお前の事見てるよ。しかしこれで本当にここから逃げ出す手段が無くなった訳になる。


「明篠、黒板の右端を見て」


他に手はないかと考えていると、幸村がもう一度私に黒板を見るように言う。ぶっちゃけあんな不吉な内容が書かれている物を観見たくはない。だが仕方なしに他の文字を視界に出来るだけ入れないように左端だけを見る。すると先ほど書かれていた物とは違い、何やら文章が書かれているようである。


「゛脱出方法は、誰か一人でも鏡を通り抜ける事。それ以外に方法はなし。しかしそれには邪魔をするアレが現れるため、容易ではない。一度アレが現れた周辺には、近寄らない事。右に記入した場所には、近づかない事゛?」


そう柳の字で書かれている。これも私が来る前に見つけたものらしい。そしてその下には゛確認済みの鏡゛と書かれており、1階から順に主な鏡の場所が記入してある。かなり膨大な量だ。職員室の給湯室にあるものや、実験準備室の鏡まである。誰が確認したのかは分からないが、゛確認済み゛と書いてある。という事はこの果てしない、膨大な数の鏡を全て確認したという事? しかもあの気味の悪いモノまで出るというそんな状態でこの校舎内を確認したというなら、それはどれだけの時間がかかったのだろう。


「もし此処に書かれている事が本当だったとして゛右に記入した場所゛とは、この名前や時間帯と一緒に書かれている場所の事だろう」

「その場所とアレが現れた周辺には近づくな、とは書かれとるが……」

「この右に書かれてる場所って、相当な量だぜ」


ジャッカルの言う通り、この明らかに死亡理由と言われるであろうものの横に書かれている場所とは、かなりの数だ。左から右へと順に書かれているが、書くスペースが少なくなるにつれて文字は小さく、挙句の果てに開いているスペースに無理やりねじ込んで書いてあるものもある。あの汚い字は絶対に赤也だ。確かにこれだけの膨大な量の場所が書かれてある事から、残りの場所を探しに行くのはとても大変だろう。だが、


「残りは4つですね」


そうだ。柳生の言葉通り残りの探さなければいけない場所は後4つなのだ。あの文章の下には゛4階男女トイレ゛とやけに汚い走り書きで書かれているのだ。この字だけはとても急いで書いたのか、それとも赤也が書き殴ったのか見当がつかないぐらいに判別がつかない。しかし確かに書いてあるのだ。各階にあるトイレは男女2つずつだ。校舎各階の両端に設置されている。という事は男女合わせて4つ、この中にある鏡のどれかが正解という事になる。しかし根本的に考えて、



「゛鏡を通り抜ける゛って、出来る事な訳?」



と、馬鹿な質問をしてみる。いや、普通に考えて出来る訳がない。きっと日常でこんな事を言ったら、盛大に馬鹿にされる事だろう。しかしちゃんとこの状況だって異常な出来事だと分かっている。だけど今まで普通に生活してきたわけで、霊感とかまったくないし、むしろそういう存在を信じていなかったという方がいいだろう。そんな状態で゛鏡を通り抜ける゛とか言われても…。この目であの変なモノを見た事は確かだけれど、こんな馬鹿げた話を信じろという方が無茶だ。今だって夢だよ、と言われれば全力で起きようと努力するだろうし、むしろ夢じゃない方がおかしいと思っている。きっとそう考えているのは私だけじゃないはずだ。緊張感も恐怖も疲労も本物だけど、危機感があまりにも湧いてこない。もしかしたら夢かも、と思っている証拠だろう。私がそう言うと、皆黙り込む。しかし幸村だけは違った。



「確かに俺はお前たちが見た人みたいなモノも見ていないから、余計に夢の中にいるみたいに感じるよ。でもねお前たちに意思はあるだろう? 俺にもある。今まで感じた感触は本物で、考える力もちゃんとある。それならずっとこんな所にいる訳にはいかない。いつあの生き物がこの扉を越えてくるかは、分からない。それでも、夢でも現実でも、こんな所にいたら危険だという事だけは分かるよ。この際どっちだって関係ないんだ。出なくちゃ、ここから出よう」



私たちの顔に、この校舎内に入ってから初めて笑みが浮かぶ。それは微かな笑みだったけど、先ほどの重苦しい空気はなくなった気がする。そうだ、夢ならいつかは覚めるかもしれないが、いつ覚めるかなんて分からない。そしてもし本当にこれが現実だったとして、そうしたら本当にここから出なければいけないのだ。幸村の言う通り、どっちにしろここにずっといるのは危険だ。一度は丸井たちを追って、この場所まで来ている訳だし。出よう。ここから出なくちゃ。



そしてまた思い出したように、頭がずきりと痛んだ。










(2014/06/14)

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