短編
□グラウンド
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『あーあ、すっかり真っ暗になったよ』
その日、あたしが下校する頃には真っ暗になっていた。
それもそのはず、あたしは立ち入り禁止の屋上で放課後、居眠りしていたのだ。
今は8時半ちょっと前。
先生も生徒も全員帰ったらしく、学校内には実質あたし1人になっているのだ。
『幽霊なんて…いないよねー…』
暗い校舎はとても気味が悪い。
あたしは急ぎ足で校門に向かう。
『それにしても、今日も仁王かっこよかったな…』
あたしが屋上に居たのは、眠っていたというのだけが理由ではない。
テニスコートで今日もかっこよく走り回っていた仁王を見ていたからだ。
毎日毎日飽きもせず放課後は仁王を見る。
見る。
見る!
見る!!
そう見るだけ。
会話はしません!!
この前、財布を拾った時以来会話ナシ。
たまに目が合うけど、あたしはそれだけで心臓爆発寸前だからすぐに目をそらす。
これではいけないとわかっているんだけど…あたしは今が精一杯でアピールなんて出来ません。
『…ハア。告白も無理、アピールも無理…どうしよう』
第一、この間の会話だけで仁王があたしを覚えているのか自体自信がない。
名前も忘れられてそうなもんだ。
あたしにとって、あの数秒の会話が大切で奇跡的で感動的な事であっても、彼にとっては何でもない事で。
こんなに平々凡々なあたしを仁王が何か思う訳ない。
あたしは、校門に向かいながら考えていた。