短編
□ずるい
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ずるい、と思う。
平門さんは、すごくずるいと思う。
だって、私が平門さんを好きなの知ってて、物事を頼んだり、私に好きって言わせるようにしたり、わざと他の男の人のところに行かせたり。
でも、結局は自分のところに戻って来るってわかってるから、余計にずるい。
「名前、今日から一週間、壱號艇の喰と一緒にカラスナに行って来て欲しい」
ほら、ずるい。
平門さんはいつも、して欲しいってお願いするから。
してこいって、命令すればいいのに。
私が断れないの知ってて、そう言うから、ずるい。
でも、もしもここで嫌がったら、どうなるのかって興味はあったりする。
「…嫌だって、いったらどうしますか」
「……言えるのか?」
ああ、やっぱり。
ニヤリ、と笑って私の目の前で立ち上がった平門さんは、ぐっと距離を縮めて。
お互いの息が感じられるほどの距離まで来た。
「…っ、いってきますっ!」
私は限界で、そう言って駆け出した。
ああああああ!
近い、近い近い!!
すごく、恥ずかしい。
あと少しで部屋を出れるというところ、ドアノブを握った私の手の上に、そっと重なったのは、平門さんの手で。
背中は彼と密着していて。
「ひ、らっ……とさ、」
「どうした?…耳が真っ赤だが」
「っ、なんでもないですっ」
そうか?
そう言った彼は、ちろりと私の耳を舐め、かぷりと甘くかんだ。
ぞわり、と背筋がした。
「っぁ、ひらっとさっ!」
「俺以外の男と2人きりになるんだ。しかも一週間」
「…?」
「…しかもそれをやすやすと受け入れるとは」
「な――――」
「帰ってきたらお仕置きが必要だな」
付き合ってもないのに、へんに束縛して、嫉妬して。
少しは反論したくなって後ろを振り返った。
「――っ」
平門さんは、やっぱりずるい。
なんで、なんでそんなにも、愛おしそうな目で私を見つめるんだろう。
あああ、もう。
やっぱり、平門さんには敵わない。
「名前、」
その言葉に、私は目をつむった。
ずるい
(触れる唇に)
(もうどうでもいいや、なんて)
(あなたは、本当にずるい人だ)
(("好き"と言わずとも))