短編

□なみだの跡、消してあげる
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ベランダで一人座り込み、お酒を片手に空を見上げた。
空に輝く星は、滲んでよく見えない。


「もう、本当に男ってなんなのっ!!」


今日、私は今まで付き合っていた人に別れを告げられた。
なんとも、最悪なかたちで。


たまたま、買い物にいって、彼と出会った。
彼は他の女の人と歩いていて。


"あ、こいつ?俺の、……友達"


そう言って私をゆびさした。
そして、私に向かって。


"これ、俺の彼女だから"


そう言い放った。

そう、つまり私が浮気相手。
私は遊ばれていたのだ。

まあ、そのまま家に帰ったら彼氏から"別れよう"とメールが来ていた、

私はぐびっとお酒を飲んだ。


「27にもなって、やけ酒とは…」

「…っ?!」


びっくりして、上を見上げると、そこには腐れ縁である平門の顔があった。


「なによ…なんか文句ある?!」

「別に」

「だいたい空なんか飛んできちゃってさぁ」


ぶつくさと私は平門に文句を言った。

でも、平門は私の隣に座り込み、頭を撫でていてくれる。


それに、さっきまで一粒も出なかった涙がほろり、と溢れた。


「あ、れ?…さっきまで、全然平気だったのに」

「名前」

「ど、して…かな?」


笑おうと努力するのに涙はかれることを知らなかった。


「っ、ひ、らとっ……私、わたしっ」

「いい、何も言うな」


そう言って、平門は私を抱きしめた。

あ、ったかい…。


それに安心して、私は久しぶりに声を上げて泣いた。


あのね、本当に、私。
あの人のこと、好きだったんだ。
遊びなんて、ちっとも思ってなかった。

悲しいとか、悔しいとか思うことはいっぱいあるけど、せめて最後くらいは、ちゃんとあって言って欲しかったな。










「…ごめん」


ずび、と鼻をすすりながら、平門に謝る。

気にするな、と彼は言ってくれているけど。


「今度何かおごる」

「別に、気にするなと言っているだろう」

「だってさー!なんかしないと落ち着かないじゃん」


平門は、別にいいのに、って顔をしてあと、考える素振りを見せ。


「本当に、なんでもしてくれるのか?」

「うん?出来る範囲なら」

「それは心配するな、全部俺がやる」


そう言ってあと、平門は私をぎゅって抱きしめた。

え、え、え?
したいことってこれ?

そう思っていると、すっと頬を撫でて、すっごく優しい笑顔で微笑む。
その笑顔に、なぜか胸がぎゅうってなって。


「ひ、ら……」


私の唇に、彼のそれが重なった。


「―――っ?!」


驚いて肩をおしたが、男の力にはかなわなくて。


「…、ひ、らぁっ……ん、ぁ……ふっ」


舌がぬるりと口内を動き回って。
歯茎をなぞって、舌を絡めて、舐めて。

ちゅっと音をたて、私の舌を吸い上げ、甘く噛む。

ぞわり、と背中に走るものを感じながら、私は彼に身をゆだねた。


「ひ、…っひら、とっ…?」

「好きだ。ずっと、好きだった」


お前、知らなかっただろ?

平門はそう言って笑う。


え、……うそ。


「え、え、ええ?」

「いい、返事は今じゃなくて。でも、少し、考えて欲しい」


平門はそう言うと私の耳元で囁く。



俺なら、絶対に、お前を泣かせたりしない。

お前を守ってやれる。


だから、俺にしろ。



俺は、お前が―――好き、だ。





なみだの跡、消してあげる
(君がもう泣かないように)
(俺がずっと)
(そばにいてやる)



((君が、恋しい、と、思う))


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