短編

□チョコよりも甘く
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「出来た!!」


チン、と陽気な音を立てたそこから出てきたのは、ハート型のチョコレートケーキ。


「朔、喜んでくれるかな…」


研案塔で働いている私と朔では、いくら恋人同士といっても、なかなか会えない日が続いて。

なんと!今日朔が家に遊びに来てくれるって言ってくれたのだ!!
気合いを入れて、部屋を掃除してお化粧して、お菓子を作って。


「…朔、早く来ないかな……」


昼頃には着くと思うから。

電話越しに聞いた声が何度も頭をリピートしてる。
早く、会いたいよ…。





時計の針が、12を回って、1、2………

遅いなあ…。
仕事長引いてるのかな。


「…つ、き……た、………」


時計の針が3を回ったのを見た瞬間、なんだか眠くなってきて、ついつい寝てしまった。










「……、……名前」


誰か、呼ぶ声が聞こえる。
聞きなれた、私の大好きな声。


「名前、」


私の、大好きな………


「――――っ、朔?!」


ガバっと顔を上げると、目の前には少し驚いた顔をした朔がいた。


「朔!えっと、ごめっ…私寝ててっ」

「いや、俺も今きたところだから……悪かったな」


そういう朔の言葉に時計を見てみると、なんと時間は午後9時を回っていて。


「仕事?」

「ああ。ったく、こんなに長引くとは思ってなかったぜ」

「お疲れ様」


朔が投げ捨てた上着を拾いながら、彼に労りの言葉をかける。

あーあ、まったく会えずに一日が終わっちゃうなあ。
でも、お仕事だったし。

私が思っていることに気づいたのかそうでないのか、朔は私を抱きしめた。


「え、つ、朔っ?!」

「これ、……作ったのか?」


見えないけど、多分、テーブルの上にのっかてるケーキのことだと思う。


「うん、朔と……一緒に食べようと思って」

「あー、うん、悪かったな」

「ううん、朔に会えればそれでいいから」


そう言って、謝る朔にぎゅーって抱きつき返した。

あったかくて、気持ちいな。
すっごく、安心する。

目を瞑って身をゆだねていたら、急に上を向かされキスをされた。


「んんっ」

「……名前、好きだ」

「え、朔っ…急にどうしたの?」

「わかんねーけど言いたくなった」


そう言って朔はチョコケーキを指で掬って口に入れる。

なんだかそれがとてもいやらしくて、思わず目をそらした。


「急に目ぇ逸らしてどうしたんだよ?」

「な、なんでもない!!」


わかって言っているんだろうから、余計たちが悪くて。

何を思ったのか、朔はもう一度ケーキを指で掬って。
私の口に入れた。


「ん、んんー?!」

「どうだ?うまいか?」

「ほいひーあへはいへほ!(美味しーわけないでしょ!)」

「じゃあ、これならどうだ?」


指を引き抜いて、朔は私の唇に自分の唇をおとす。


「――んっ」


口を割って入ってきた舌が、絡んで、舐め取って、吸い上げて。

あ、まい……。

チョコと唾液が混ざって混ざり合って。

息が苦しくなって、目の前がふわふわする。


「…っぁ、ん、つ、きっ」


離されたお互いからは、透明な糸を引く。

朔はひょい、と私を持ち上げてにこりと笑った。


「名前、いいか?」


その言葉の意味に気づいて私は顔を赤くさせて、頷くことしかできなかった。



そのあと、朝までたっぷり愛されたのはまた別の話。





チョコよりも甘く
(こ、し、いた)
(なんだー?情けねぇな)
(あ、あんたねぇ!)



((甘いのは、君))


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