短編

□kiss me
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彼はモテる。

それは、付き合う前から分かっていたことだけど……。


「きゃー!朔さーん!!」

「格好いい!!」

「ステキー!!」

「おいおい、ちょっと離せって…っ」


さすがにイラっときたりは、するんだな。

2人の任務は珍しい。
任務の後、どっか寄ろうって朔が言ってくれた。
から、すっごく楽しみにしてたのに。

街に出た瞬間これですか。

仕事で立て込んでたから、ずっと、ずっと……我慢してたのに。


私は、何だかすごく悲しくなって、女子の輪のなかにいる朔に何も言わずに、走り去った。






「はあ、」


結局、2人きりになれなかったなあ。

赤く染まっていく空を眺めながら肩を落とす。

朔は今頃、あの女の子達とお茶でもしてるのかなあ。
なんてマイナス思考になってみたり。


「今日、すっごく楽しみにしてたのに、な……」


そう口に出した瞬間、涙がほろほろと溢れてきて。
私は両手で顔を覆った。

朔っ……

心の中でそう叫んだ。


――――ふわり、と包まれた。


私のよく知った体温に。



「…ぇっ、」

「っ、一人で勝手にいなくなんなよ」


耳元で囁かれる声に、背中から感じる体温にまた涙が溢れ落ちる。


「つき、たちっ…」

「ごめんな、一人にして」

「…つき、たっ……」


朔の手が私の頬に添えられ、そっと上を向かされる。

逆さまに見える朔の顔が優しげで、なんか怒ってことを忘れそうになる。


「つきたちっ……わたし、さびしかったっ」

「ああ」

「わたっ…私の、つきたちなのにっって…」

「おう。………もう、黙ってろ」


そう言って触れたのは、朔の唇。



少しだけ、しょっぱい味がした。





kiss me
(お願い)
(もっともっと)
(近くまで)



((甘い、甘い距離))


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