こんなせかいのなかで
□ま
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「平門さんなんか嫌い!」
そう言って私は部屋を出た。
嫌いって言っちゃった、悲しくなってぽろぽろ涙は止まらなくて。
平門さんが、悲しくなってた。
痛いって、叫んでたのに。
平門さんのこと傷つけちゃった。
ぽろぽろ泣きながら廊下を歩いていたら、平門さんそっくりの服が前から歩いてきて。
でも髪赤いから、きっと朔さんかなって思って、頭を下げた。
「ハク?」
声を聞いて、やっぱり朔さんだって思ってたら急に抱き上げられた。
ビックリして逃げようとしたら、落ちるぞって言われたから止まった。
「なんで泣いてんだ?」
「っ、な、ない、てないっ」
「すっげーぼろぼろじゃねぇか、どうしたよ?」
朔さんは、抱き締めながら頭を撫でてくれて。
よくわかんないけど悲しくて嬉しくて涙がもっと出た。
あのね、朔さん。
私が悪いの。
私が、わがまま言って平門さんのこと困らせちゃったから。
なのに、私、平門さんに嫌いって言っちゃった。
私が悪いのに。
平門さん、すごく痛いってなってたのに。
泣きながら話したら、ちょっと待ってろな、って言って、朔さんはどこかにいった。
どうしようかな、でも待ってろって言われたし、でもな、って思ってたら、すごい風が来た。
風来たって、びっくりしたけどそれが平門さんだって気づいて、もっと涙が出た。
「ひ、らっと…さ、」
「すまなかった、本当に、悪かった」
平門さんの声は切羽詰まったって感じの声で、平門さん、痛いっていってるから、私は大丈夫だよってぎゅーってした。
「平門さん、大好き」
へへっ、て笑ったら、平門さんも笑ってくれた。
嬉しくて、嬉しくて、もっともっとぎゅーってしたら平門さんもぎゅーってしてくれた。
「で、何が原因だったんだよ」
談話室ってところで、お茶を飲んだ朔さんが言った。
「あ、あのね」
「お前には関係ないだろ」
平門さんは、朔さんにそう言って私を抱き締める腕に力が入った。
平門さんの膝の上に乗ってるから、私は動けなくて、もぞもぞしながら、でも仲直りできたのは朔さんのお陰だから、っていったら平門は、まあ、それもそうかって言ってくれた。
「あのね、前喰君に言われたの」
「喰に?」
朔さんは、ん?って顔をしかめて。
喰君に、付き合うには先があるんだよって言われたの。
それでね、私いっぱい考えて、喰君にもう一回聞いたんだ。
抱き合ったり、キスしたりすること?って。
でも、喰君に、それより先があるんだよって言われて。
わかんなかったから平門さんに聞いたの。
平門さんは、教えてくれなくて。
なんでって聞いたら、お前がまだ子供だからって。
「………」
「恋人なのに、子供だって言われて、なんか悲しくなっちゃって」
「っぶ、はっ」
聞き終わったら、朔さんはお茶を吹き出して、笑い転げた。
平門さんは、うしろでうるさいって言ってて、でもなんだか暖かくて。
きょとんってしてたら、朔さんが、私の前に来て頭に手をのせた。
「でもよ、これでひとつ大人になれたな?」
「え、」
「付き合うの先って、確かに抱き合ったりキスしたりって、あるかもしれねぇけどよ」
喧嘩するのだって、付き合うの先だろ?
朔さんの言葉に胸がぽかぽかする。
「うんっ!」
平門さんと喧嘩するのはすっごく悲しい。
寂しい気持ちにもなる。
でも、これが大人になるための大事なものだったら、私、頑張る。
だって、平門さんは、こんなにも暖かいから。
またひとつ、ふえる
(ひとつずつ)
(知っていくたびに)
(ひとつずつ)
(好きが増えていく)
((平門さんも、おんなじきもちだったらいいのにな))