小説

□リンゴのような頬
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今日は梅雨明けの猛暑。
梅雨が明けたばかりなのにそれより早く訪れた夏は人々から体力と水分を奪っていく。

「あちぃ〜……これならまだ梅雨の方がよかった」
「熱斗君、それ梅雨の時も夏がいいって言ってたよね」

太陽の光をめいっぱい浴びて体が重くなりながら、熱斗は高校から帰宅しようと家まで自転車を走らせる。

「あー風がきもちいー」
「熱斗君!! 前、前!!」

ロックマンが叫ぶが先か、熱斗は目の前の車に気づかずそのまま追突してしまった。
黒の高級そうな車にぶつかった熱斗は、自転車から落ち、頭こそ打っていないが足を軽く捻挫した。

「いたたた……」
「何をやってるんだお前は……」
「へ?」

聞き覚えのある声に顔を上げてみると、そこには相変わらずたまごの殻のような髪色をした青年、炎山が立っていた。
どうやらこの車はIPCの車らしい。

「え、炎山! いつこっち帰ってきてたんだよ?!」
「ついさっきだ。連絡するより、迎えに行った方が早いと思ったんだ。そしたらいきなりお前が追突してきたんだ」
「あ、そだ、車……大丈夫?」

炎山はこの間まで仕事でライカのいるシャーロへ出張に言っていた。連絡するより先に迎えにきてくれたというのが嬉しい熱斗は少しにやけたものの、正直な話、ぶつけたのが炎山の車であっても高級車であるという事実は変わらないわけで、熱斗の心配はそこにしかなかった。

「はぁ……。車の方の傷は大丈夫だ。幸いかすり傷程度だ。気にするな」
「ごめんなさい……」
「そう思うなら前を向いて自転車乗れバカ」
「はい……」

久しぶりの再会が最悪なものになってしまって熱斗は落ち込んだ。同時に、捻挫した足がずきずきと痛む。
すると、それに気づいた炎山が、しゃがんで熱斗の足に触れた。

「いっつ……!」
「ったく、捻挫か? 自転車は……無事だな。日暮屋にでも止めさせてもらおう。暴れるなよ」

ひょい、と軽々しく熱斗を抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこ。

「うわ、うわあっ、え、炎山!?」
「暴れるなと言ったろ!」

ドサッ、と車の後部座席におろされた。炎山はさっさと自転車を日暮屋の隣に止めると、自分も車へ乗り込んだ。

「本社近くの病院へ」
「かしこまりました」

秘書に車を運転させ、とりあえず病院へ向かうことに。
その間熱斗は珍しくドキドキが止まらなかった。
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