小説

□風邪
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熱斗が風を引いた。
馬鹿でも風邪を引くんだな、と言ったらロックマンに作業中のデータをデリートされそうになった。

忙しい仕事の中、それでも文句を言いながら熱斗に会いに行くのは、俺が熱斗を愛してるから。






ピンポーン、と家のチャイムがなる。
ママが代わりに出てくれるだろうと思って怠い体を布団にうずめてたら、一向にドアの開く音がしない。
まさか、と思って下りてみれば、案の定ママはいなかった。

「はいはーい……どちら様ですかー?」

熱で怠い体を動かしながら、パジャマ姿のまま玄関のドアを開ける。
そしたらそこには、ビニール袋を片手に立っている炎山の姿があった。

「え、炎山!? な、なんで、なんでうちに?」
「そこまで驚くことなのか……。ロックマンから聞いた。熱出したんだろ。歩いてていいのか?」
「いや、うん、ママがいなかったから……多分買い物行ったんだと思うんだけど。あ、入って」

俺は焦りながらも炎山を家にいれた。
炎山がうちに来るのはもう何度目だろうか。いつも来るたびにママの手料理を食べさせられる。
嫌ではないようだけど、ママの勢いに押されてて見てて面白い。

「熱斗、大丈夫か?」
「ふぇ? 大丈夫だいじょう……」

視界が急に変わった。どうやら転んだ、というか倒れたらしい。
思ったより頭が痛い。怠い。
炎山が俺の顔を覗き込んで心配している。人のことより自分のことも心配しろって感じだ。

「熱斗、立てるか?」
「ん……」

炎山の肩を借りながら俺はベッドに寝かされる。
机の上にあった体温計を脇に挟まされて、濡らしたタオルを額に乗せてもらって、炎山が買ってきてくれたスポーツドリンクを飲んだ。
さっきまで視界がぐるぐるしてたのが随分と楽になった。でもまだ炎山は心配そうな顔をしている。

「炎山……俺は大丈夫だから、そんな顔すんなって……」
「誰のせいだ……」

体温計が鳴る。
炎山が素早く俺から体温計を奪うと、体温を確認した。

「38度か……。いいか、今日一日絶対安静にするんだぞ」
「はーい……」

まるでママみたいだ、と言いかけた口をつぐんで、またタオルを濡らしに立った炎山の背中を見た。
頼もしくて優しい背中だった。俺やっぱり炎山好きだなーって思ったところで眠くなってきたのでそのまま目を閉じた。
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