小説
□距離
1ページ/2ページ
僕らの距離は遠いようで近くて、近いようで遠い。
言葉を交わすことだって、触れ合うことだって出来るのに、何故かとても寂しくなる。
それは、僕らが『データ』だから……?
「……ロックマン?」
オペレーターたちが寝静まった深夜。
朝まで終わらなさそうな仕事を黙々と続けていたブルースは、背後で気配を感じた。
こんな時間にブルースを訪ねるのはロックマンしかいない。
分かっているからこそ、ブルースは振り向きもせずに、とりあえず疑問形で名前を呼んだ。
しかし返事がない。このまま沈黙が続くのは嫌なので、ブルースは振り向こうと体を動かした。
「……どうした」
「ぶるーす……」
背中に重みを感じた。
ロックマンは自分の背中をブルースの背中にぴったりとくっつけ、背中合わせになる。
ほとんど体重をブルースに乗せるので、いささか体が前かがみになるブルースは、ぐい、と起き上がって仕事を再開する。
弱弱しい声でブルースの名前を呼ぶロックマン。
このまま仕事を続けてていいのか、いつも通りでいいのか、ブルースは思わず手を止めた。
「ロックマン……どうしたんだ」
「ねぇ、ブルース……」
「僕らは、いつまで一緒にいられるの?」
データであるナビたちがよく考える疑問。
いつかは出る答え、でも、今は出したくない答え。
ブルースは黙る。合わさった背中が震えるのを感じた。
ロックマンは泣いた。
いつか来るであろう『別れ』に。
そしてそれを考えてしまう自分が、ブルースを困らせているということに。
「……先を考えて泣くより、俺は、今を考えて、笑っていたい」
ブルースは立ち上がり、泣いてるロックマンの正面にしゃがんでそう言った。
涙、というデータを零しながら、顔を赤くしている。
「……でも、ブルース笑わないよね」
「その分、お前が笑えばいいんじゃないか?」
そっと抱きしめる。
じんわりと感じる体温。あるはずのない、鼓動。
ブルースも、ほんの少し考えたことがある。
自分たちが人間だったら、と。
いつか『死』が訪れても、自分たちが生きた時間は残る。
だが、ナビである、データである自分たちは……。
死んだら何も残らない。データの欠片一つ残らない。
「人間だったら――」
「ブルース?」
声に出ていたらしい。思わず口に手を当てる。首を傾げながらもロックマンは笑った。
さっきまで泣いていたロックマンは、もうすっかり笑顔だ。
「お前は笑ってればいい」
「じゃあブルースは、」
僕の隣にいてね。
「当たり前だ」
遠かった距離がとても近くなった気がした。
僕らはナビでありデータであるが、きちんとした人格も感情もある。
それに、隣にいてくれる人がいるから。
遠くて近い距離。
いつか消える、その日まで。
END
次ページ、あとがき