小説

□距離
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僕らの距離は遠いようで近くて、近いようで遠い。
言葉を交わすことだって、触れ合うことだって出来るのに、何故かとても寂しくなる。

それは、僕らが『データ』だから……?




「……ロックマン?」

オペレーターたちが寝静まった深夜。
朝まで終わらなさそうな仕事を黙々と続けていたブルースは、背後で気配を感じた。

こんな時間にブルースを訪ねるのはロックマンしかいない。

分かっているからこそ、ブルースは振り向きもせずに、とりあえず疑問形で名前を呼んだ。
しかし返事がない。このまま沈黙が続くのは嫌なので、ブルースは振り向こうと体を動かした。

「……どうした」
「ぶるーす……」

背中に重みを感じた。
ロックマンは自分の背中をブルースの背中にぴったりとくっつけ、背中合わせになる。
ほとんど体重をブルースに乗せるので、いささか体が前かがみになるブルースは、ぐい、と起き上がって仕事を再開する。

弱弱しい声でブルースの名前を呼ぶロックマン。
このまま仕事を続けてていいのか、いつも通りでいいのか、ブルースは思わず手を止めた。

「ロックマン……どうしたんだ」
「ねぇ、ブルース……」




「僕らは、いつまで一緒にいられるの?」





データであるナビたちがよく考える疑問。

いつかは出る答え、でも、今は出したくない答え。
ブルースは黙る。合わさった背中が震えるのを感じた。

ロックマンは泣いた。
いつか来るであろう『別れ』に。
そしてそれを考えてしまう自分が、ブルースを困らせているということに。

「……先を考えて泣くより、俺は、今を考えて、笑っていたい」

ブルースは立ち上がり、泣いてるロックマンの正面にしゃがんでそう言った。
涙、というデータを零しながら、顔を赤くしている。

「……でも、ブルース笑わないよね」
「その分、お前が笑えばいいんじゃないか?」

そっと抱きしめる。
じんわりと感じる体温。あるはずのない、鼓動。

ブルースも、ほんの少し考えたことがある。
自分たちが人間だったら、と。
いつか『死』が訪れても、自分たちが生きた時間は残る。

だが、ナビである、データである自分たちは……。
死んだら何も残らない。データの欠片一つ残らない。

「人間だったら――」
「ブルース?」

声に出ていたらしい。思わず口に手を当てる。首を傾げながらもロックマンは笑った。
さっきまで泣いていたロックマンは、もうすっかり笑顔だ。

「お前は笑ってればいい」
「じゃあブルースは、」

僕の隣にいてね。

「当たり前だ」



遠かった距離がとても近くなった気がした。
僕らはナビでありデータであるが、きちんとした人格も感情もある。
それに、隣にいてくれる人がいるから。


遠くて近い距離。

いつか消える、その日まで。



END

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