小説

□くすぐったい
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「なぁなぁ炎山」
「なんだ」
「炎山ってさ、『くすぐり』って効く?」
「……は?」

それは唐突な質問だった。
ソファの上で持ってきたお菓子を頬張りながら、仕事中の炎山に投げかけた言葉。

炎山は微妙に眉をひそめて、熱斗を見つめる。
そうそう、と思い出すのは、熱斗も自分も、まだ小学生であるという事実。
友達同士でくすぐり合ったりするのは、恐らく目の前いる熱斗も例外ではない。

しかし残念ながら、友達とわいわい楽しく遊ぶ、と言った小学校生活を送ってこなかった炎山には、自分にくすぐりとやらが効くかどうか、皆目見当もつかなかった。

素直に分からない、と答えると、熱斗の目がキラキラと光る。
まるで幼い子供が新しいおもちゃを発見したような、熱斗で言うなら、マンゴーがたくさん乗ったホールケーキが目の前に置かれたときの目。
あまりに無邪気なその目に、恐怖すら覚えた炎山だったが、別に『ただの』くすぐりなので、諦めることに。


その『ただの』と馬鹿にすらもしていたくすぐりによって、とんでもない地獄を見ることになるとも知らずに。
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