小説

□睡眠不足とマンゴープリン
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足がもつれそうになるくらいまで勢いよく走る。
目の前に扉が見えてきて、バンッ、と音がするくらい強く開ける。




「遅い」
「これでも全速力で走ってきたんだぞ!?」

そんな熱斗の言葉を無視するかのように、炎山は副社長室のデスクから熱斗を睨みつける。
どうやら、随分とご立腹のようだった。そしてこのままでは巻き添えを食らうと思った赤と青のネットナビは、素早く姿を消した。

「今日はテスト日だったはずだが?」
「……だ、だって、」
「新発売のマンゴープリンに目が眩んだ、か」
「う……」

そう、何を隠そう、熱斗が炎山との約束に遅れた理由は、IPCの会社近くにある洋菓子店のマンゴープリンに足を止めたからである。
熱斗の青いナビ、ロックマンは何度も何度も熱斗を促したのだが、マンゴープリンに誘惑に負けた熱斗はそれを食してから炎山のところに来たのである。

「つまり俺は、マンゴープリンに負けたというわけだな」
「い、いや、その、あの……」

冷や汗が首筋を伝い、今この状況が非常に危険だということを告げている。
さすがの熱斗も、自分の行動を反省しないわけがなかった。

「……熱斗」
「な、何……?」
「俺のここ数日の睡眠時間を知っているか?」
「さ、さぁ……」
「5時間だ。3日で、5時間だ。今日なんてほぼ寝ていない」
「お、お疲れ様……」

詰め寄ってくる炎山に恐怖を感じ、逃げ道だけは確保しようと入ってきた扉まで後ずさる。
だが、ドアノブを触って気づいた。

「え……」
「あぁ、そこの扉だが、あらかじめお前が来たら施錠するようにブルースに言っておいた」
「なっ……!?」
「それと、今日はここには誰も近づけさせないようにも言ってある。安心しろ、熱斗」

その笑みがあまりにも恐怖で、なんで今日マンゴープリンが売っていたんだ、と最終的にはマンゴープリンに責任転嫁し始めた。
完全に逃げ場が無くなった熱斗の顔の横を、炎山の手が伸びる。
両手をドアに押し付け、炎山の顔が近くなる。

「え、えんざん……」
「情けない声を出すな」
「だ、だってそんなに怒るなんて思わなくて……」

僅かに目線を逸らして口籠る。
いつになく気弱な熱斗が面白いのか、炎山が声を押し殺して笑う。

「な、何笑ってんだよ!」
「別に。お前が可愛くてな」

熱斗の額に軽く口付ける。

「え……炎山の馬鹿! 変態! 痴漢!」

顔を真っ赤にして文句を言い出す熱斗に、睡眠不足からか、いささか苛立った炎山が熱斗の口をキスで塞ぐ。

「んむっ……んぅ……」
「……甘いな」

すぐ口を離すと、恨めしそうに熱斗が炎山を睨みつけている。
真っ赤な顔では迫力も何もないのだが、精神的にも肉体的にも余裕が一切ない炎山は、熱斗の耳元に口を近づけ、

「文句はベッドで聞いてやる」

そう囁いた。

逃げようとした体ごと抱きしめられて、大人しくなったところで抱えあげられる。
そして仮眠室へと押し込められ、ベッドに押し倒される。
でも、嫌ではなくて、寧ろこのまま受け入れてしまおうと思った熱斗は、炎山の口に軽いキスを落とした。



ただ、残念ながら炎山の怒りは収まっておらず、結局その日は炎山の家に泊まることになった。
早々に逃げた2人のナビは、炎山たちの様子をうかがいながらいつの間にかPETに戻ってきており、熱斗はしばらくロックマンに向かって膨れっ面を見せていた。

「ロックマンの裏切り者!」

ぷい、とそっぽを向いた首にはしっかりと赤い痕が残っており、ロックマンは自分の首を抑えながら苦笑いをせざるを得なかった。



END

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