小説

□告白
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夏。人々を苦しめる太陽が一番長い間出ている季節。
外では照りつける太陽が歩く人々に暑さとだるさを与えている一方で、デンサンシティで最近オープンしたばかりのゲームセンターのネットバトルマシンで2人のネットバトラーが接戦を繰り広げていた。
黒のパーカーを来た白と黒の髪色をした青年と、バンダナを巻いた制服姿の青年が同時にバトルチップを転送する。

「プログラムアドバンス、無限バルカン!」
「ふっ、甘いな、こっちもプログラムアドバンス、ドリームソード!」
「いっけぇー!!」

バンダナを巻いた青年のナビであるロックマンは無限バルカンを構えて、ドリームソードを構えて突っ込んでくるナビ、ブルースを迎え撃つ。
ロックマンが放った攻撃は数発ブルースの肩をかすめたが、その他全てをかわしてロックマンの懐へ潜りこんだ。

「やばい、ロックマンかわせ!」
「無駄だ、いけ、ブルース!」
「終わりだロックマン!」
「うわあっ!」

バルカンの反動で一瞬動きが止まったところをドリームソードで切られてしまった。
倒れたロックマンの頭上には、「勝者ブルース」と表示が出た。
一般的にはデリートだが、このネットバトルマシン内でデリートは行われない。もちろんバトルが終わればヒットポイントは自動的に回復する。

「ちぇ、炎山の勝ちかぁ!」
「しょうがないよ熱斗くん。でも次は絶対負けないからね!」
「フッ、望むところだロックマン。炎山様、1時間後にアメロッパの会社との商談がございます。早急に社へお戻りください」
「相変わらず騒がしい奴らだな。分かった、すぐ戻る」

熱斗が小学校を卒業して地元の中学に上あがる時、炎山は既に高校のカリキュラムを終えてアメロッパの大学への留学が決まっていたらしい。
その為二人は炎山が仕事でデンサンシティに来るとき以外はまったく会えなくなり、月に数回メールを交わすくらいの関係になっていた。

しかしそれから4年後、熱斗は高校1年生になり、炎山は無事にアメロッパの大学を卒業して現在IPCの副社長として激務に追われている。
だがお互いオペレート能力は衰えていなかったようで、炎山がニホンに戻ってきてすぐネットバトルを申し込んだ熱斗は喜びに満ち溢れた表情をしている。
負けたのは悔しそうだが。

「そういうわけだ。俺は社に戻る」
「えー……」
「えー、じゃないよ熱斗くん。アメロッパから帰国したばっかりの炎山くんを無理やり連れだしたんだから、しょうがないよ」
「……まぁそうだよなー。悪いな炎山、仕事頑張れよ!」
「あぁ」

炎山はほんの少し口角をあげて笑うと、未だにさっきのバトルの話でロックマンと盛り上がる熱斗を背にしてゲームセンターを出た。
外はかんかん照りで炎山の白い肌がすぐ黒くなってしまいそうなほどだ。

「なぁ、ブルース……」
「はい、なんでしょう炎山様」
「……変わってなかったな、あいつら」
「……はい」

真夏の太陽の下、炎山とブルースはいつになく笑いながらIPCの副社長室へと戻る。
クーラーの効いた社に戻った炎山は部屋の隅に置いてあるコピーロイドにブルースを転送した。

「炎山様、何かお飲みになりますか?」
「そうだな……今は麦茶でいい」
「了解です」

コピーロイドに転送され、電脳世界から現実世界に発現したブルースは、慣れた手つきで炎山の机周辺を整え、炎山愛用のマグカップに麦茶を注いで渡す。
よほど暑かったのだろうか、渡された麦茶を一気に飲み干すと、炎山は一息ついた。

「炎山様、光熱斗からメールです」
「ん、読んでくれ」

さらに注いでもらった麦茶を飲みながら、この後商談する会社の資料を読んでいる。
その横でブルースが届いたメールを読み上げた。

「今日は楽しかったぜ! またネットバトルしような!、と……あと最後に……」
「ん? 最後にどうした?」
「いえ……あの……これは私が読むよりも炎山様が読んだ方がよろしいかと……」

口籠るブルースの姿に眉をひそめながら炎山がメールを読む。
読んだ瞬間に思いきり麦茶を吹いてしまい、慌ててブルースが掃除をする。

「炎山様……」
「……何も言わなくていい。商談の準備をしてくれ。来月発売の新型PETをいち早く海外にも売り込むチャンスだからな」
「はっ……」

ブルースが一旦PETの中に戻った。
炎山は黙したままわずかに震えた手で書類を読み続ける。

『そういえばずっと照れくさくて言いにくかったんだけどさ、俺、メイルちゃんと付き合うことになったんだ。一応報告な!』

メールの最後の文章が、熱斗の声で何度も頭の中で再生される。
炎山は熱斗に対して淡い恋心を抱いていた。だが関係を崩したくない炎山はひたすらその思いを堪え、熱斗のライバルとして近くにいることを望んだ。
いつかこうなることは百も承知であったはず。だが、炎山は想像以上に自分がショックを受けていることに気付き、自嘲気味に笑った。

「炎山様、まもなくお時間です……」

ブルースが少し遠慮したように声をかけると、炎山は一度目を閉じ、何か吹っ切れたような顔をして立ち上がった。
炎山が応接室へと向かったのを確認したブルースは、赤いPETの中から消えた。
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