菜花起々の恋愛事情〈BL〉
□Only Star【完】
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ぼやっとしている内に、男子生徒は俺の手に乗っている黒縁メガネを覗き込む。かなり視力は悪いようで、後頭部がすぐ目の前にある。
「…これ…僕の、です」
彼は不意に顔を上げて、そう申告した。
…近い、うん近い。
「…ッじゃあはい、どーぞ」
見上げてくる顔にメガネを掛けさせる。…別に動揺を隠そうとしたワケではない。うん、絶対に。
「ふあ…!?」
しかし、彼は驚いたような声を出した。…どうも実際驚いたようだ。
「ッ…!」
ただ、彼が驚いたように、俺も驚いてしまった。
それも二つの意味で、だ。
一つは、その声。
もう一つは…
「…ど、どうかしましたか?」
声を掛けられてハッとなる。
「…ううん、何でもないよ」
笑う俺に、そうですか、とメガネを掛けた彼がきょとんと首を傾げた。
…ヤバい、可愛い。仕草もさることながら、メガネの効果も凄い。掛けている方が幼く見えるからだ。
…もう一つは、メガネの有無、つまりそのギャップだ。
「僕、これが無いと本当に見えなくて…拾ってくださり有り難う御座います」
律儀に頭を下げられる。
…俺、そんな大それた事してないんだけど。いや、でも凄く嬉しい。
「いいって。頭上げて。ええと…」
「あ、巫柴幾々(ミコシバ・アヤキ)と申します。一年生です」
「俺は二年の菜花起々(ナバナ・タツキ)。宜しく、幾々君」
「…!」
…あ、つい癖で名前で呼んでしまった。
この反応は嫌なのだろうか?というか馴れ馴れし過ぎたか…?
「ゴメン、名前呼び嫌だった?」
「い、いえ、そんな事はないです!」
彼…幾々は首と手を勢いよく横に振った。
その様子から本当に嫌ではないのが分かり、安心する。
「そう、良かった」
「ッ…と、ところで、何か御礼を…」
「え?」
「あ…でも何も無い…」
そう言って下を向き、何やら真剣に考え出した。
…一般的には一度断りを入れるのだろうが、あまりにも考え込んでいるし、
(考えてる姿も可愛い…)
というワケでタイミングを逃してしまった。
しかし、このまま話が進まないのも考えモノだ。
「そうだ、今時間ある?」
「え…ありますけれど…」
「じゃー、俺の話し相手になってくれない?」
自ら提案した。
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