番外篇

□ある日の軒上家〜クリスマス篇(零:中学二年)
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――12月25日。世間一般で言うクリスマス。

今年もきたな〜、と感じつつ料理を作っていく。
傍らでは、妹が真剣な表情でココアクリームをスポンジに塗りたくっている。

「零霞、今年のケーキは何だ?」
「ブッシュ・ド・ノエル。あ、正式にはビュッシュ、だっけ?ほらフランスの」
「あァ、丸太のやつ。で、ロールケーキか」
「そそ。今年もちゃんとお隣に持ってくからね〜」

お隣…すなわち日々谷家。俺の幼馴染みが居る家だ。
何故かクリスマスには作ったケーキをお裾分けする事が恒例となっている。
少なくとも、兄が物心付いた時には既にやっていたらしい。

母親同士がとても付き合いも長く、また仲良しなのでその影響が強いのだろう。
そうでなくとも、零霞も俺も仲良くさせてもらってるし。

「手伝える事があったら手伝うが…」
「大丈夫。それにこれは私の仕事だから私がやらないと」
「…だよな」

これも数年前からすっかり恒例となった。
妹はお菓子の類を作り、俺はメイン全てを作る。
以前は兄も一緒だったのだが、社会人になってからは時間が取れなくなってしまい、、結局こういうカタチに落ち着いた。

「零兄は?何作ってるの?」

ココアクリームを塗り終え、一段落する妹に問い掛けられる。
…半分に切り分けて片方を持って行くのだろうが、繋がっているとやっぱ長いな、コレ。

「ほぼいつも通りだと思って差し支えはないぞ」
「ほぼ…て事は去年とはまた違うのが食べられるんだ!」
「少しは変えないとつまらないだろ?てか、零霞も毎年違うの作ってるよな」
「毎年同じじゃあ、ね?それに新しいのを試すいい機会だし」

…毒味係って事か?
いや、零霞のお菓子に基本間違いは無いからいいけど。
言ってしまうと、そこらの店より遥かにレベルが高いし。見た目も味も。

ただ、ロシアン系で遊ぶのは正直勘弁して欲しい…。
おかげでハロウィンは少しトラウマになってしまった。

「あ、あと今年はジンジャークッキーも作ったんだ〜」
「鎮座されていた人型はそれか…」

数日前から冷蔵庫に生姜が増えていたり、人型を見た時に香っていたりしてたのも。
…って、クッキー?アレ、何だか嫌な予感しかしない…。
訊きたいような、訊いたら終わりのような…。

(……うん、訊かないでおこう)

ココアクリームにフォークで筋を入れている所を邪魔しちゃ悪いし。
クリーム塗ってる時より集中してるようだし。

そう自己完結をさせて、俺は俺で料理の仕上げに取り掛かった。

そして、俺も妹も全て作り終えた所で、玄関から物音が聞こえてくる。
かと思えば、リビングの扉が開いて、

「たっだいまー!!」

兄がお勤めから帰ってきた。
声からも、いつもよりテンションが高い事が窺える。

「「お帰り、リン兄」」

俺と妹は、そんな兄の様子に小さく笑いながらキッチンからリビングに向かった。


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