番外篇

□ある日の軒上家〜バレンタイン篇(零:中学二年)
1ページ/3ページ

零霧の場合(〜Side 零霧)


「コレは一体…。」

出社した俺は、辿り着いたデスクの上を見て、困惑した。

その理由は、これでもかという程の箱や包みが、丁寧かつ綺麗に積み上げられてあるからだ。

(あァ…。)

隙間から覗くカレンダーを見ると、2月14日、すなわちバレンタインデーという事に即座に思い当たる。
…つまり、デスクの上に積み上げられている包みは、お菓子(恐らく大半がチョコ関係)だろう。

「さて、どうしたものか…。」

毎年恒例の事態といえばそれまでなのだが、如何せん量が多い。

…全く、訳が分からない。

ほぼ全て…というより、全てが義理だろうが、ここまで渡される覚えはこれしきも無い。

(…お返し、か?)

俺は料理は何とかできるが、お菓子の類は一切作れない。
どうしようか、と考えていた時に、

「ついでだし、作るよ?そっちの方が安くつくし。」

と、零霞が申し出てくれた。
無論、最初は断ったが、結局時間もないので委ねる事にした。
以来、3月14日に、作ってもらったお菓子を各部署へ皆さんで食べて下さいという意味で纏めて届けている。
名前が無くて、返すのに困る人も居るからである。

(2人が作るお菓子は間違いがないし。)

とりあえず、片付けない事には仕事も出来ないのでデスクの上を片付け始める。

片付け始めて、そういえばと、鞄の中を漁った。

「だから、か…。」

零と零霞が渡してくれた袋を取り出し、その事に納得した。

(コレは生チョコで、こっちは…。)

あしが早いのと、そうでないのとを分けながら袋に入れていると、

「いや〜、今年も凄い量だな。」

同僚の二十八荒多(ツヅヤ・アラタ)が他人事のように声をかけてきた。
…まァ、実際他人事だしな…。

「そう思うなら手伝ってくれ。」
「刺されたくないんで、お断りですよ。」

言って、荒多は陽気に笑う。

…誰に刺されるんだ?
考えるが、分からないので考えるのをやめ、作業の手を進める。

「でも、本当に多いですね。返すのも大変でしょう?」
「毎年一気に各部署に届けてる…というか荒多も食べてるだろ。」
「そりゃあ美味しいですから。」
「威張って言うなよ…。」

荒多と話しているうちに、仕分けが終わり、デスクもスッキリする。

「スマン、ちょっと出てくる。」

断りを入れ、出社早々、纏めた袋を持って会社を出る。

向かう先は郵便局。
今日中に、尚且つ時間を指定して自宅まで届けてもらう為だ。

手続きを済ませ、

「さて、仕事するか。」

ふっと気合いを入れて、会社に戻る。

…そして、会社に戻った後、何かが送れらてくる度に社内がざわつき、

(今日は落ち着いて仕事出来ないな…。)

と悟った。

―因みに、大半は皆さんで食べて下さいとの名目で零霧へと送られてきたモノだった(キチンと自宅に送るようにした)。

―会社で、

「今年も反応無しなの!?」
「軒上部長…いつになったら振り向いてくれるんですか…!?」
「いや、まだ望みはある!…ハズ!」
「…ハッ!もしかして、他社の女が!?」
「そ、そんな話、一切無いわよ!?」
「あッ、二十八さん、部長の好きな人知らない?」
「知ってる訳ないでしょ…。ハァ…。」

なんていう会話が流れていたのを零霧は知らない。

「今年の零と零霞のは何だろうな?」

零霧が一番楽しみにしている相手は弟妹から、という事を会社の皆は知らない。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ