HQ!!BL
□カラオケ
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夏休み真っ盛り、
俺は日々を悶々としながら過ごしていた。
俺を悩ませるのは大量に出された課題……。
というのもあるけれど、それよりも深刻な問題があった。
及川さんに、全然会えねぇ……。
高校生となった及川さんは忙しいようで、それでも夏休み前まではもっと頻繁に会うことが出来た。
夏休み前までは……。
夏休みももう半分が過ぎようとしている。だというのに、夏休みになってから一度も会えていない。
おかしくないか、これ!
最後に会ったのは多分及川さんの誕生日……俺がプレゼントあげて、及川さんも喜んでくれて、それで……。
結構な時間が空いてしまっているから、細部は覚えていないけれど……なんか俺、やらかしたりしたんだろうか?
あれか、誕生日直前まですっかり忘れてたから、その日に購買で買った牛乳パンをプレゼントしたのがダメだったか。いやいやでも牛乳パン及川さんの大好物だし、オマケに飲むヨーグルト付けたし……。う、乳製品×乳製品はくどかったか。それか……及川さんの誕生日なのに俺が興奮しちゃって及川さん抱きしめてそのままキスしちゃったことか?そういえばアレ……流れでついしちゃったけど初キス……だ!うわ、それだ。絶対それだ。あの人ああ見えてロマンチストなとこもあるからきっとそれだーーー!うわー俺及川さんとキスできたの嬉しすぎてそんなの失念してた。これヤバい?ヤバいよな……。
その後謝るか謝らないか十数分ほど悩んだが……意を決して俺は電話を掛けることにした。
まぁこの結論に至った理由は、怒られたりするとしても、会えないにしても、せめて声を聞きたい……!! という深刻な及川さん不足だったのだけれど。
よし、と俺は受話器を持ち上げる。
中学生にはまだ早い、とかいうことで俺は携帯を持っていない。及川さんは……高校に入ってからかってもらったらしく、嬉々として番号を教えてくれた。
なんかあったら、連絡ちょーだい。
そう言って携帯番号渡す及川さんをキャバ嬢みたいだと思ったのは内緒だ。
俺はその時のメモを広げ、慣れない番号を押していく。あんなことを言われたが、連絡はいつも及川さんがしてくれた。だからこの番号に俺からかけるのは、実は初めてだったりする。
ぴ、と最後の番号を押し終わり、無機質な呼び出し音が鳴る。
俺の首筋に、にわりと汗が浮かんだ。
好きな人に電話するって、こんなに緊張するもんなのか……。
とぅるるると軽快な感じで鳴る音に、徐々に心音が早まっていく。
そしそれは途端に途切れた。
「やっほー。トビオちゃん元気してる?」
俺からかけたのに、まるで及川さんから電話が来たみたいだった。
「元気……です。」
俺はというと久しぶりの及川さんの声が嬉しすぎて、完全に出遅れた。
ただ早鐘を打つ心臓を必死に誤魔化していた。
及川さんはふふ、と小さく笑って
「久しぶりトビオちゃん。ねぇ、今から会えない?」
なにかよう、とも聞かずに自分のペースを醸し出す。そんな横暴なところも懐かしいと感じるくらいで、あぁ、俺本当に及川さんと全然会ってなかったと思った。
とりあえず怒ってはないみたいで、ホッとした。
やっぱり会えなかったのは純粋に忙しかっただけみたい。
「あー、暇です……。」
「うん、じゃあさ、カラオケ行こ。」
「カラオケ……。」
聞き慣れない娯楽。もちろん存在は知っているけれど、行ったことはなかった。
「駅においで。迎えに行くから。」
なるべく早くね!と及川さんは一方的に言って、がちゃりと通話は終了される。
久しぶりの会話は1分にも満たなかったけれど、それでもこれから及川さんに会えると思ったら、どうでもよくなった。