HQ!!BL

□因縁……?
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目が合った。

ネット越しにこちらを覗く、
情念の籠った、目。

複雑かつマイナスな感情に彩られたその目に、俺は惹き付けられた。

それと同時に不思議に思う。

誰だっけコイツ。












俺たち白鳥沢は、決勝まで順調に進んだ。
もちろん目指すは全国での優勝だから、ここまではただの前哨戦にすぎない。

この決勝戦も、慢心はないが、勝って当たり前だと思っている。

だから俺たちはリラックスして、自然体で、普段通りにバレーをするまでだった。


しかし相手の、青葉城西の空気は、明らかにはりつめていた。
空気が淀んでいるのではと錯覚させるほどの、怨念にも似たオーラを放っている。

特にそれが顕著なのが、背番号一番。

こんなに睨まれるほどのなにかを、俺はしたのだろうか。

気になって、じっと見つめ返す。

相手は怯むことなく、というよりむしろより強くにらみ返して来た。

あ、やべ。コイツから溢れる憎しみのようなものが伝染を始めた。


徐々に俺たちにも広がる緊張感。

目を逸らして、仲間に安心させるための言葉の一つや二つかけるべきなんだろうが、俺はそれがなかなか出来ない。

コイツの目が、俺を離さない。

互いに、見つめあう。

凝視し合う。

注目し合う。

睨み合う。

なんか視姦してるみてぇ。

妙に整っているそいつの顔に、変な気の迷いを起こした。

まぁそういうのも試合で発散させるまでだ。

審判から合図が出る。背番号の確認か。俺は強い視線のそいつに背を向けた。しばしの間身を固めて、いいですよ、と審判が言った。

入れ代わるように青葉城西の方も背番号の確認をする。それによってふっ、と途切れたそいつの視線に、俺は寂しさを覚えた。

寂しさ?

なんだか胸の辺りがもやもやとしたが、そういうのも試合で発散させるまでだ(2回目)

周りでは熱が渦巻いている。これから始まる試合に気合いを入れる声、勝負に向けて高まる心音、勝ちを思って早くなる呼吸。

ゆっくりと深呼吸をする。

心を埋める2文字。それはただ、勝つ、勝つ、勝つ、

青葉城西の背番号確認が終わった。
ああ、もう試合が始まる。

また、鋭い目が俺を見る。

何だ、親の仇を見るようなその目は。

熱気と二酸化炭素でうっすらと、視界さえも霞みそうな、どこか浮わついたコートの上で、そいつの目だけは、曇りなく、揺るぎなく、俺を見つめていた。

そいつはすっと一歩を踏み出して、セッターの位置へと着いた。

あ、思い出した。

コイツ、全中の時俺らに負けて、でもベストセッター賞獲っていきやがった。

及川

徹。


か。

随分、雰囲気変わった……な。

気付かなかった自分を正当化した。でもそう思うと、色々と思い出してくる。

鮮やかな、そして冷静で、隙はあるが、でも完璧なトス。

正しくセッター。
司令塔で、チームの要。

あれ、こんな凄い奴を、俺はなんで忘れていたんだっけ。

また分からなくなって、及川の目を見つめた。

及川は相変わらず貫くように俺を見ている。痛いほどの視線。

ぞわり、と背筋を何かが撫でる感触。

及川の目に、冷たささえ感じる。

それは一体何だろう。

勝利への確信か。

いや、違うな。

俺を倒そうと、虎視眈々と狙っている、ケモノみたいな、剥き出しの闘争心。

冷たい。

敵意に溢れたその目が冷たい。

ドクリ、と心臓が脈打つ。

及川の冷たい敵意とは裏腹に、俺は心がカァッと熱くなるのを感じた。

なんだこれは。

なんだ、この感情は。

及川の冷たさが逆に燃えるようだ。その冷たさが苛立つのか。そうか、きっとそうだな。

そんなに冷たい目で見るんじゃねぇ。

そんなに敵意剥き出しで向かってくんな。

野獣のように、

ただ俺を倒そうとするだけ。

及川の唇が、うっすらと開く。



さぁ、

はじめよう。




音の無い声が空気をはりつめさせ
及川は笑う。

狂乱めいた試合が始まる。


試合開始の合図。

笛の音。


「負けねぇよ。」

俺の独り言が聞こえたのか、及川は振り返った。

凍りつくような、笑み。

なんて冷たい、瞳。

「勝つのは、俺たちだよ。」

冷酷な、

美しい憎悪が俺を撃つ。






ざわざわと怨念が空気を震わせ、

どうしようもないこの感情を、ボールへぶつけた。
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