HQ!!BL

□及川徹ちゃん
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及川のことが好きだと気付いたのは、何時だっただろうか。

及川のことを好きになったのは、もうずっと昔のことだった。昔から好きだった。

小さい頃の記憶。

『わたし、大きくなったらはじめちゃんのおよめさんになるね!』

ふとそんな声がよみがえって、苦笑してしまう。

もう昔のことなのに、そんな何気ないセリフさえしっかりと覚えていて、みっともなくすがっている自分にあきれてしまう。
アイツが俺を好きだと言ったのはもう昔のことなのに。幼い子供のたわむれだったのに。

『はじめちゃん』

そう言う及川の表情まで微細に思い出すことができて、ああ、俺はあんなに小さいときから及川のことが好きだったのか。どうもそうらしい。と納得した。

及川と遊んだことはもちろん、喧嘩したことも思い出す。
傷つけたこともある。
泣かせたこともある。
でも、自惚れてもいいなら、笑顔にさせたことだってあるんだ。






と、夕暮れの教室で珍しくノスタルジーなんかに浸る俺に、

「いーーーーわちゃーーーーーん!」

どかーんと何かがぶつかって来た。



おいもう雰囲気台無しだろがボケ。

俺を岩ちゃんなどと呼ぶ奴は一人しかいない。俺に勢いよくタックルをかましてきたのは、先程まで再生していた記憶のなかで美化されていた及川徹だった。

「岩ちゃん今日は部活ないんでしょ!?じゃあ買い物付き合って!新しいシューズ買うのシューズ!」

及川は俺にタックルをかましてきながら微塵も悪いと思っている素振りもなく目を輝かせて俺へと迫ってきた。ちなみに及川のほうが女子の癖に俺より身長が高いので、俺は見下されている気分になる。

過去の記憶を蘇らせていただけに今の身長差が際立って腹立たしいことこの上ない。

あの頃のちびっこくて可愛くて俺を見上げていた純粋な及川はどこへ……。

美化された記憶はあっさりとしぼんで、目の前の及川のことだけで頭がいっぱいになる。

ってか顔近。

「ねーねー行こうよ岩ちゃーん。ねえってばー。」

ガクガクと頭を揺さぶってくるこいつに照れとかは無いのか。仮にも俺は男だぞ。そんな接近するなべたべた触るな。
しかもそんな上ずった声で誘うな阿呆が。

「うるせーぞクソ及川!」

俺は苛立って及川を引き剥がした。
本当は頭突きの一発でも食らわせてやろうと思ったけれど、及川も一応は女なので我慢した。

「もー岩ちゃんつーれーなーいー!行こうよ岩ちゃん、学校一の美少女とデート出来るんだよー行こうよー!」

「うるせぇ自分で学校一とか言うな!」

「美少女なのは否定しないの!?」

「揚げ足ばっか取ってるとマジで殴るぞボケェ!」

及川はきゃー、とこんな時だけ高い声を出して俺から逃げる。

「マッキー助けて!」

「あ、こらテメェ!そんなべたべたすんな抱きついてんじゃねぇ貞操観念大事にしろクソ川ああああ!」

「え、何ソレ岩ちゃん嫉妬!?」

及川の目があからさまに輝く。

「ちげぇよボケ!誰が嫉妬なんかするか!」

「もう岩ちゃんたら照れ屋さんなんだから!」

やや演技くさくちゃかしてくるコイツの顔が微妙に悲しそうなのを、俺は見逃さない。

……ったく、自惚れるぞ俺は。

「ッチ。分かった行くぞ。俺もテーピング必要だしな。」

「舌打ち!!」

ショックを受けたように叫んでも、俺が承諾すると、たちまち及川は満面の笑顔になる。よくもまぁこんなにころころ表情が変わるよな。

「やったー!岩ちゃんとデートデート♪帰りに自慢焼きも食べてこうね!」

「自慢焼きってお前なぁ……。」

及川の色気の無さに呆れつつ、そんなところも可愛いと思ってしまう俺は相当に及川のことが好きだ。

悔しいから言ってやんねぇけど。













「このバカップルが……。」

自然に並んで行く二人を見て、花巻は小さく悪態を吐いた。
巻き込まれたり見せつけられたり、こっちはいい迷惑だっつーの。

岩泉の奴も、早く告ればいいのに。
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