Eyes On Me
□その2
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千景様は私と一緒に家の外に出た。
空には細い月。夜目の効く鬼には不便ないが、殆ど光はない。
夜逃げにはうってつけな夜だ。
「…久しいな 名前。」
穏やかに千景様が言葉を紡ぐ。その口ぶりはどこか優しくて、懐かしんでいるようで。彼のことをあまり覚えていない私にはわずかな罪悪感が芽生える。
「えぇ…ご無沙汰しています。」
あたりさわりのない 返答。
けれども 彼は気づいてしまったようで…
「…おい、正直に言え。お前は…覚えているのか?」
覚えているというのは 多分千景様のことだろう…。頭領に嘘はつけない
「恐れながら…。鬼の里での暮らしはほとんど覚えていません。」
正直に答えたが、闇の中 彼の表情が曇りのを感じる。
怒られてしまうかな…幼かったからある程度仕方ないと思うんだけど…。
しかし、彼がとった行動は もっと意外なものであった。
「!?」
ぐっと身体を引かれ わずかな月の光も感じない闇に包まれたと思ったと同時に、唇に一瞬 何かが触れる。
一体何が… すぐ目の前には千景様…
抱き寄せられて 口づけされた
文字にするとそういうこと。
現に今でも彼の両手は私の背中に回っていて…
わけがわからない。