Eyes On Me

□その1
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祖父は数年前に亡くなり、祖父の親友だった元頭領も先日亡くなった。更には 里では新たな頭領が就任したらしい。その 新しい頭領がこのたび、突然に里に戻ることを命令したらしい。

「名前 お前も昔よく遊んでもらっただろう。千景様だ。彼が頭領になったんだ。」

父が言う。

千景様……。ぼんやり 金色の髪の男子を思い出す。あまり覚えていないが…不思議と……


いい思い出がない… ような気がする…。

思い出せないのに いい思い出がない と思うのは何故だろう。心に何か突っかかる。

いや、でも 良い感情がないような気がするのは 思い出云々というより 人里から離されてしまうからかもしれないと思い返す。

後ろ髪を引かれる思いだが、両親の喜びを見ていると 異を唱えることなんてできない。尤も、命令なのだから断ることもできない。

追い出されたとは言え 今までは時折だが鬼の者が訪ねて近況を教えてくれたり 里の知り合いに文を出したりすることもできた。怪しまれることなく 人里に家を構える手伝いなどもしてくれた。 だけれど 命令にそむけば 今度こそ「はぐれ鬼」となるに違いない。

だけど…

はぁ…せっかく好きな人ができたのに…。

ため息が出る。このまま人里で暮らせれば…もしかしたら一緒になれたのかもしれないのに。

鬼の両親ですら 『もしこのまま人里で暮らすならば、人と交わるのも仕方がないのかもしれない』と彼を認めつつあったのに。

「一さん…」

彼の名前をそっと呟く。

片思いだけど 大好きな 大好きな 斎藤一さん。


。。。続く。
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