Eyes On Me

□その4
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酒屋に行った帰りに 新選組を見かけてから さらに十日がたった。

その間 私はほとんど自由がなかった。

別に軟禁されているわけではない。ただ、千景様は出かけるとなると、それが薩摩藩の用事でなければ必ず私を連れていくし、屋敷にいれば 屋敷にいたで囲碁や将棋の相手をさせられたり(もっとも私は弱すぎていつも千景様は文句を言っていたけど)、夜になれば酌の相手だ。

酒屋さんに行くまでは ここまで千景様が側にいることは無かったのだが…。一体どうしてしまったのやら。「勝手に離れることは許さん」とまで言われてしまう。

今日は千景様は一人で出かけている。きっと薩摩藩がらみの用事なのだろう。

久しぶりに一人きり 縁側で体を伸ばす。
まさに鬼の居ぬ間になんとやら。。。まぁ私も鬼なんだけどね。

ふぁぁっ

まだ昼前なのにあくびが出る。

「お茶でもご用意しましょうか?」

ふいに天霧さんに声をかけられた。気を抜いていた顔を見られて恥ずかしい…

「すいません。千景様が留守とはいえ 気を抜きすぎですよね。」

「いえ、風間が遅くまで酌に付き合わせるのがいけなかったんでしょう。私からも少し言っておきます。…風間が聞き入れるかは保証しかねますが…」

天霧さんが苦笑したのに合わせて 私も苦い笑を浮かべた。

千景様のことだから きっと聞き入れないだろう。そういえば こんな千景様にふりまわされる日々のうち 私にまた新たに古い記憶がよみがえった。

幼いころ、千景様に 「お前が読み聞かせろ」と、幼い子供が読むには難しい 論語やら兵法やらを無理矢理 千景様に読まされていた。もちろん…幼い私がそんな難しいものを読めるはずもなく 千景様は「違う 違う」と 最後は機嫌を悪くするのだった。

こき使われたり 困らされたり。…こんな記憶ばかりでは 私が古い日々をすっかり忘れてしまったのも仕方がない気がする。自己防衛の一種だ とすら思える。


その後 天霧さんは「眠気覚ましに」と濃いめのお茶を入れてくれた。
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