Eyes On Me

□その2
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夕方になったころ、引っ越しの準備が整った。結構な荷物だ。

父が言うには、宵闇にまぎれて里から引っ越しの手助けが来るらしい。

…まるで夜逃げじゃないか…。と思う。

とはいえ 里の事を人間に知られるわけにはいかない。目立たず 忍んで移動しなければいけないのも事実なのだ。

辺りが闇に包まれる頃 トントン と戸が叩かれる。

いよいよか と思いながら父が戸をあける。

戸から入ってきたのは二人の男。赤い髪の男は従者だろう。
そして 闇の中でもわかるほど鮮やかな紅の瞳に 金の髪。

あぁ、 そうだ…
千景様だ。

ぼんやりした記憶の霧が少しだけ晴れる。
そうだ、千景様は赤い瞳をしていたんだっけ。

ずいぶんと綺麗な青年になったのね。里の娘たちはきっとみんな彼に夢中だろうな。

私は 立ち上がり千景様にお辞儀をする。

千景様はさして興味もないかのように「名前か」 と私の名を呟くと すぐに父に向き直り、引っ越しの手はずなどを話す。

私など さして興味もない っといったところか。

すぐに数人の男鬼たちがやってきて 手際良く引っ越しを進める。

私もそれを手伝う。後ろでは 父が千景様と話す声が聞こえる。

「いやぁ、千景様も立派になられて…」

幼いころの彼を懐かしむような口ぶり。それを聞くと、確かに自分は彼と知り合っていたのだな と思う。

あれやこれやと作業していると、父が「千景様がお前に話がある」と呼びに来た。

何の話だろう…昔のことを言われても 私はほとんど覚えてないんだけどな。

彼のところへ向かう。
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