Eyes On Me

□その1
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「え…里に戻る…?」

予想外の父の言葉に 間抜けな声が出てしまう。

そんな私をよそに、父と母は感無量…とでもいった具合に喜んでいる

「そうだ!今の頭領から、戻ってきていいとのお許しがでた。 いや、お許しではないか 『戻って来い』という命令だ。命ならば逆らうことはできないが 世の中にこんなにも喜ばしい命令があるものだな」

「命令…。」

確かに 鬼の一家である私たちにとって 鬼の里で暮らせるというのは 幸せなことなんだと思う。

だけど私は………。


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私たちは五つくらいまで、鬼の里に住んでいた。至って普通に。

私の祖父は 当時の頭領と親友で、よく覚えていないけれど 私は頭領の孫と遊んだこともあった…と思う。

でも あるとき 祖父と頭領が仲違いをしてしまったらしい。 それまでの仲の良さが嘘であったかのように 二人は険悪になり、

とうとう
頭領は「里から出て行け」と言い、

祖父は「言われなくても出てってやるさ!」

売り言葉に買い言葉。

結果私たち一家は里を追い出されるように 人里に下りてきた。

街に出ようと京の端に小さな居を構え、鬼ということをひた隠し、ひっそりと刀鍛冶を営んだ。

幼い私はよく覚えていないが、最初のうちは相当な苦労だったであろう…。両親が祖父のいないところで「里に戻りたい」と漏らしていた姿を見たことも、わずかな望みをかけるように 鬼の伝手を使って里に文を出す姿を見たこともある。

だけれど 幼い私の方はといえば 幼さゆえの柔軟性なのか、人の間で難なく育って行った。


「女鬼なのだからゆくゆくは…」と親に女鬼としての心構えを諭されることもあったが、人の世で生きてきて、これからも人の世で生きて行くのだろうと思っていた私は まさに『右耳から左耳に流して』聞いていた。

そのせいだろうか…

人里<ここ>から離れたくないな…。

私は人間に恋していた。
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