Short(log)

□三十分
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これは三十分後の出来事

冷たくなっていく彼女、そして彼女を抱きしめる俺

何故こんな事になった、俺の超能力で分かっていた事だろう、なのに何故止めれなかった


「大丈夫だヨ……きっと……きっと俺が助けてみせるから……」


そう言う俺の頬に水が流れる、俺の星ではほとんど毎日雨が降っている、その雨が俺の頬を濡らしているのだ

……本当にそうか?俺は柄にも無く泣いているんじゃないのか?

そんな考えが頭をよぎった瞬間、彼女はニコリと笑い、俺の濡れている頬に手を添えた


「大丈夫、泣かなくていいよ、ごめんね神威」


所々途切れていた声だったけど、彼女はそう言って眉毛を少し下げながら笑った

あぁ、これも三十分前見えた出来事と同じだ

そして、彼女はゆっくりと目を瞑り、俺の頬から手を離して、力をなくしたように俺に凭れかかった

さっきまで俺に触れていた手は、パシャリと水に当たり、それっきり動かなくなった

あぁ、これもだ……結局俺は出来事が分かっていても彼女を護れなかったんだ


「ねぇねぇ、例えば俺がさ超能力が使えて、三十分先の出来事が分かるとしたらナマエはどうする?」

「えー?何それ……冗談でしょ?」

「あはは冗談だよ、当たり前でしょ?」


冗談だったら良かったのに……俺は分かっていても何もできないのだから……

そう思いながら彼女に話したのは三十分前の事


「……ナマエがさ……俺がさ……」

「……?神威?」

「いや、なんでもないヨ」


彼女に三十分先の出来事を話さなかったのも三十分前の事

俺の言った事を不思議そうに見る彼女が死ぬのも、俺が本当は事実の事を冗談と笑った三十分先の事

三十分前まで動いていた彼女が動かなくなったのは三十分先の事

所詮は時間なんて分かっていても何もできない、超能力を持っていても変えられない

俺は、一番救いたかった彼女を助けられなかったのだから


「……ナマエ……ッ……」


ほら、また、俺は三十分前見た事と同じ動きをする

冷たくなった彼女を抱き締め、雨かも涙かも分からない水を流す

そして、俺は彼女と……ナマエと同じ様に息をするのを辞めた

苦しくなっていく中、変わらず雨の音が耳に入っていく

規則正しいとも言い難い、今まで飽きるほど聞いてきた雨の音が聞こえなくなったのは、苦しさが無くなった時だった

俺は彼女と同じ様にパシャリと水に当たり、動かなくなった


「ナマエ……ごめんネ……」


力を振り絞り出した声は、彼女への謝罪の言葉だった
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