Short(log)

□一歩前進
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ゆっくりと膝を曲げて手を合わせる

周りでは蝉が一週間命を懸命に残そうとするように激しく鳴く

太陽の光が反射して、少し眩しく見える石には"花京院之墓"と綺麗な字が彫ってある


「花京院、そろそろお盆だから承太郎の所にでも行って金縛りにでも合わせたら?きっとスタープラチナにオラオラされるよ」


微笑みながらそう呟いて私は花京院の墓に水をかける

花も変えて、好きだと言っていたさくらんぼをお供える


「……花京院本当、贅沢だよね……さくらんぼもこの暑さじゃあ悪くなっちゃいそう……」


そう言いながら私は一つさくらんぼを手に取って口に含む

ゆっくりと咀嚼すると甘酸っぱい味がふわりと広がり、なんだか切なくなる


「もうあれから何年経ったのかな……すっかりおばさんになっちゃってさァ……困るよ」


苦笑いしながら花京院に言うように話す、ゆっくりと立ち上がり墓石を撫でると、なんとなく花京院のフワフワした髪の毛を思い出した


「私に撫でてもらえるなんて、本当贅沢な奴」


そう言いながら手を下ろすと、目尻がジワジワと熱くなってきた

花京院はもういないのだ、どれだけ花京院の頭を撫でようとしても手を伝わってくるのは冷たい石の感触

無機質な感触が、私に現実を突き立てる


「……花京院、承太郎さ……結婚して子供も産んじゃって……なんか私だけ変わってないんだよねェ……変わったのは小シワぐらいかな……」


そう言いながら泣きそうになるのを誤魔化すように私はさくらんぼを口に含む

タネをティッシュに包み、袋に入れた時、後ろから足音が聞こえた

ゆっくりと振り向くと、出会った頃とは少し落ち着いた雰囲気を醸し出して、真っ白な服を着た承太郎が立っていた


「……ナマエ、来てたのか」

「うん、そうだよ承太郎博士」

「博士はやめろと言っているだろ」

「はいはい」


少しからかうと承太郎は溜め息をつきながら言い返してきた

そして、ゆっくりと花京院の墓に私と同じように水をかけ、手を合わせた


「承太郎、花京院ってさ……水かけられてるけどどんな感じになってんだろうね」

「……さあな、もしかするとあの前髪のセットが崩れてんじゃあねぇか?」

「言うね……」


てっきり鼻で笑われるのかと思ったが承太郎はなかなか面白みがある答えを返してきた

そして、承太郎はゆっくりと立ち上がった、必然的に私の隣に立つ


「……花京院は……幽霊ってやつになるとあの高校生のままなんだろうな……どう思う?ナマエ」

「……ある意味羨ましいかな……年取らないみたいで」

「……それもそうだな」

「まあ、承太郎みたいに結婚できないけどね」

「それはテメェも同じだろ、早く結婚しろ」

「……これでも理由があるんだよ」


前みたいに少し笑いながら承太郎と話す、思えば最近会わなくなって話してなかったんだっけ?

杜王町とか言う所でジョースターさんの隠し子が見付かったって聞いたが、会いに行っていたのだろうか……?

そう思いながら承太郎を横目に見ると、少し悲しそうに花京院の墓を見ていた


「ナマエ、お前……結婚しない理由って言うのは……」

「ストップ……そこまで言うのは野暮ってものだよ承太郎」

「……すまん」


承太郎は花京院の墓を見ながら私に結婚しない理由はもしかしてと聞いてきたが全て言う前に遮る、すると承太郎は帽子のつばに指をおいた

少しの間、私達は言葉を発さなかった

蝉の声だけがやたら響く空間で私は花京院の最期を思い出す、DIOの攻撃で、腹に大きな穴を空けられても、なおジョースターさんにザ・ワールドの能力を知らせた事を


「花京院、最期はなかなかかっこよかったよね」

「……まあな」

「頑張ったと思うよ……チェリー院のクセに」

「そうだな……」


私の言葉を承太郎は全て短く答えてきた、だがそこがなんだか昔に似ていて少し笑ってしまう


「なんだったら、昔の事や今の状況報告として喫茶店にでも行くか?」

「いいの?承太郎、家族の事は」

「これも仕事のうちだろ」

「駄弁る事のどこが仕事!?」


そんな事を言いながら私は墓地を後にする承太郎の後を追った

二、三歩歩いた時、不意にポンッと肩に手が置かれ様な感覚がして


「ありがとうナマエ、相変わらずみたいで安心したよ……でも金縛りには承太郎じゃあなくてナマエに合わせる事にするよ……また暇な時に来てくれ」


と、なんとなく花京院の声が聞こえた


「花京……ッ!!」


思わず名前を呼びながら慌てて振り向いたが、当然、あるのは墓だけ


「?ナマエ、どうした?」


前に行く承太郎が私の名前を呼んで振り向いた、私は少しの間花京院の墓を見ていたが、気のせいだと頭の中で処理して承太郎に着いて行き喫茶店で少しの間話した

後日、お盆の夜にチェリーの怪物が私の上に乗って金縛りに合わせた、そして私は怖さのあまり夜中に泣きながら承太郎に電話をした


「承太郎ォォォ!!チェリーの怪物がッ!!」

「……テメェ……こんな夜中に電話するな……切るぞ……自分のスタンドでなんとかしろ……」

「ちょっ!!待って待って!!」

「…………」

「承太郎!!寝ないでェェェ!!お願いだからスタープラチナでオラオラしてぇぇ!!私のスタンドじゃあ絶対効かないィィ!!」


結局、承太郎は寝落ちをして、私はビクビクしながら寝る事になった、二回目の夢はよく覚えていないがなんとなく悲しい夢だった

モヤモヤして思い出そうと頑張ったが、まるで砂嵐がかかったようにのように思い出せなかった


「ナマエ、ナマエが僕の事が好きだったのは分かっていたよ、僕も好きだったのだからね……ごめんね……死んでしまった事がナマエにとっての鎖になるなんてね……でも僕はナマエに進んで欲しいんだ、もう僕を置いて進んで行って」


二、三年後私は何年かぶりに恋をして、結婚を前提に付き合う事になった

その事を花京院に伝える様に墓石に話すとなんとなく微笑んでいる花京院を思い出した
 

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