Short(log)

□名前を呼んで
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清潔感を出す真っ白い廊下を進み、ある一室のドアノブを引く

生暖かい風が同時に当たり、また窓を開けていたのかと、呆れる


「あまり、身体を冷やしたらいかんぜよ」

「あ……もっさん」


少しだけ青白い顔で笑ってこちらを見たのは、ワシの親友ナマエ

何年か前に重い病に掛かり、この病室でずっと寝ている


「今日は何か土産ある?」

「またそれがか…あるぜよ!!」


ナマエのいつもの台詞にため息を付いたが、にこやかに答えると、ナマエは目を光らせてきた


「マジ!?何!?何がある?」

「まぁ、そう慌てるな、なくなるわけじゃないきに」


ナマエをなだめながらそう言うと、恥ずかしかったのかほんのりと頬を赤く染めて俯く


「今日はコレを持ってきたぜよ!!」


自信満々にそう言い、あるものを出す


「これは……」


ナマエに見せたのは、マグカップだ

実は土産を忘れてしまい、慌てて買ってきたマグカップ、だが、なかなか愛くるしいフォルムをしている


「……どうじゃ?」


マグカップを両手で持ちながらジッと見つめるナマエにそう言うと


「……嬉しい……ありがと」


と、ニコリと笑ったナマエ


「本当がか!?いやー、喜んでもらえて嬉しいぜよ!!アッハハハハ!!」

「もっさん、うるさい、ここ病院」

「……すまん」


いつものように馬鹿みたいに笑うと、冷たくツッコミを入れられた

それから二人で他愛もない話しをする

少し経ち、そろそろ帰ろうと立ち上がった時、強めの風が病室を包んだ


「うわ……強いな……」

「だから言ったじゃろ?……もう閉めてもいいがか?」

「うん……ごめん」

「謝る事なんてないぜよ!!」


ナマエの申し訳なさそうな顔を見ると心臓が締め付けられる感じがする

窓を閉めて、ナマエの方を向くと


「あ……もっさん、頭……」

「ん?どうした?」

「桜……」

「え?」


ナマエのいきなりの言葉に驚いていると、ナマエはワシの頭に手を伸ばした

そして、頭の上にある何かを取ると、手を開いてそれを見せてきた


「ほら……もう咲いているんだね、桜」

「本当じゃの…もう春か……」


ナマエの手の中には桜の花びらが乗っていた

そういえば、ナマエが入院したのも春だったか……

そんなことを思い出し、聞こえない様に小さくため息をつく

あれから容態は良くなっていない……むしろその逆だ……

今の医学ではナマエの病気はどうにもできない、なにが天人だ…なにが文化が進んだだ…こんなに苦しんでるナマエすら助けられない文化なんて……

天人、そして幕府に少し腹を立てていると、ナマエが切ない顔をして


「次は……いつぐらいに来てくれる?」


と、言ってきた


「そうじゃのぉ……また新しい商談が来たから、少し遅れそうじゃ……」


返しにくい言葉だったが、本当の事を言わないといけないのでそう言った

すると、ナマエは


「そっか……まぁ、ヅラとか銀時とか晋助が時々来てくれるからいいか」


と、悲しそうに呟いた


「……すまんの……」

「ううん、謝らないで……もっさんも商談頑張ってね」


いつもそうだ……ナマエは謝ると謝らないでと返してくる…そんなにワシは頼りないか?

思った事を口に出さないように心に留めておく

そして、また来るといいワシは病室を出た


「今日は……名前呼んでくれないんだね……もっさん」


そんなナマエの言葉は、ワシには届かなかった
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