30000HIT御礼企画

□大型犬、承太郎
1ページ/1ページ



「ガルルル……」


猫は嬉しい時やリラックスしている時に喉を鳴らすと言うが犬は威嚇や機嫌を損ねた時に喉を鳴らす、それは犬を飼っている家庭や動物好きにとってはよく知られている事だ

と言うことは今の音は確実に私に対しての威嚇や機嫌を損ねた事を訴えているのだろう、私の目の前にいる一見狼ではないかと思ってしまう程の大きさの黒い犬が

私は少し考えてから半分程室内に出ている体をもう一度玄関の外に出してみた、すると先程と同じように喉を鳴らす黒い犬

さて、どうしたものか……この大型犬は明らかに私が出て行く事を拒んでいる、だが私はもう友達と約束をしてしまっている

小さく溜め息をついてから私は完全に室内へ体を入れて、犬と視界を合わせるようにしゃがんだ


「承太郎」


少し怒ったような声色で犬の名前を呼んだ、承ると書いて"じょうたろう"我ながら渋い名前を付けてしまったが私も承太郎も結構気に入っている名前だ

承太郎は名前を呼ばれた事に反応して少しだけ尻尾を振った、相変わらず無愛想でクールな犬だ

そんな承太郎を見たまま私は承太郎の首輪に手を伸ばして言い聞かせるような口調で話した


「昨日言ったよね?今日はどうしても外せない用事があるからこの新しい首輪でのお出かけは明日にするって」

「……ガル……」

「私だって承太郎と散歩したいよ、でも友達がどうしてもって言うから」

「……」


子供に言い聞かせるようにそう言うと承太郎は段々と先程までの威勢をなくしていった、犬というのはある程度人間の言葉が分かっているような素振りをすると言うが承太郎は本当に理解しているようにも思える

承太郎に謝りながらいつものように頭を撫でると首を振って私の手から逃れて部屋の奥へ向かって行ってしまった、少しだけ罪悪感を感じながら玄関から出ようとした

その時承太郎がトコトコと戻ってきた、振り返ると承太郎はお気に入りのヒトデのぬいぐるみを咥えて持って来ていた、そしてそれを床に落とすとヒトデのぬいぐるみに顎を乗せてくつろぎだした

どうやら分かってくれたようだ、"ここは俺に任せな"と言っているような承太郎の雰囲気に思わず噴き出しながら私は承太郎に行ってくると言って玄関を出た

結局友達からの用事というのは彼氏の愚痴で私は少し迷惑だなぁと思いながらもアドバイスを言っていた

もうそろそろ夜ご飯の時間帯だ、承太郎は大丈夫だろうかお腹を空かしてないだろうかなんて思いながら友達に奢ってもらったオレンジジュースを飲む

帰りたい気持ちが出てきた時やたらと外から視線を感じる気がした、友達の表情を伺ったが特に何も気にしてない事からきっと勘違いだろうと思った


「おい」


視線を感じてから数分経った頃友達の愚痴も終わったきた時急に誰かに声をかけられた、顔を上げると厳つい顔をした男性がこちらを見下ろしていた

友達が驚いたように私と男性を交互に見ている、そんな中私は酷く混乱していた、彼の事は全く知らないし見た事もない、しかし彼の視線は完全に私に向いている

どちら様かと聞こうとした時彼が私の手を掴んだ、そして勝手に出口に向かって歩き出してしまった、友達は慌てたように私を追いかけようとしたが友人だと嘘をついた

もしもこの人が誘拐犯だったらどうしようなんて思いながら彼に腕を引かれたままでいた、するとふと人気のない路地で彼は立ち止まった


「……マスター俺が誰だか分かってるのか?」


彼の言葉に私はビクリと肩を揺らしてしまう、その反応を見てどう言う事か分かったのか彼は大きく溜め息をついた


「この服と帽子はマスターの忌々しい彼氏のだぜ、俺にはちょいと小さいがマスターを迎えに行く分には問題ねぇ」

「え?……え?」

「留守番を頼まれたが帰りが遅いもんで心配して来ちまった」

「あの……話が読めないのですが……」


ペラペラとよく分からない事を話し出す彼にそう切り出すと、ここまで言っても分からないのかと言われてしまった

分からないも何も初めから全く何も進展がないと思いながらも小さく謝ると彼は渋々帽子をとった、するとそこには厳つい顔には似合わない物が生えていた


「……犬……耳??」


ピコピコと動く耳に唖然としながらそう呟くと彼はこれで誰だか分かるかと聞いてきた、初めはただの変な人かと思ったがおそらく違う

全く信じたくない事実がなんとなく明らかになってきた、彼の耳は私の愛犬のそれに似ているのだ

そしてよく見ると彼は私の愛犬と同じ首輪をしている、そしてなんとなく瞳も愛犬に似ている


「承太郎……なの?」


か細い声でそう言うと彼は静かに頷いた、それでもまだ信じられなくて愛犬のクセや私の休日のスケジュール、愛犬の散歩ルートなど詳しく問いただしたら彼は全てを答えた

どうやら私はこのぶっ飛んだ事実を認めないといけないようだ、思わず腰が抜けてしまい家に帰る時は承太郎に運んでもらった


「やれやれだぜ……マスター掴まってないと落ちるぜ」

「ご……ごめん承太郎」


結局昨日変えたばかりの鍵の隠し場所を知っている事や彼の背中からチラリと見えた尻尾で私は信じる事にした

人間になってもお気に入りのヒトデのぬいぐるみを大きな体で持っている承太郎を見て私は思わず笑ってしまった
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ