10000HIT御礼企画
□15、掌
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15、掌
ブツリ……ブチ……と、体の中で何かが切れる音が響く
そして、音が鳴った部分を中心にドクドクと血が流れる感じがした
まさか、ヴァニラ・アイスが死ぬ瞬間に私を攻撃してくるなんて思ってもいなかった、完全に油断していたのだ……
私は、この戦いで、アヴドゥルさんやイギー、花京院君を助けるため、何巡もしてきた
それが、私のスタンドの能力だから
途中で諦めようともした、DIOが私以外の全員を倒す時もあった、ゲブ神との戦いで花京院君が死ぬ時もあった、エンペラーの銃弾でアヴドゥルさんが死ぬ時もあった
そんな過去を私は何度も何度もやり直してようやく、アヴドゥルさんとイギーを救えた、なのに、私がやられるなんて
「……ッ……がッ……」
膝をつきながら傷を見る、どうやらヴァニラ・アイスは厄介な事にクリームを使って私を攻撃したようだ
私の横っ腹が、まるで丸ごと食われたように無くなっていた
スタンド能力を使ってやり直そうとしたが、おそらく無理だ、今やったら体力が無さ過ぎて上手くいかないだろう
「ナマエ!!」
フッと力が抜けた瞬間、ポルナレフの声が響き、私は倒れる事なく支えられた
短い呼吸しかできない、息を吸う度痛みが襲ってくる、ドクドクと止まりそうもない血が流れるのを私は当たり前のように感じていた
「アヴドゥル!!早く……早く止血を!!」
「……ポルナレフ……」
「クソッ!!……ッ……頼むナマエ!!死ぬなよ!!大丈夫だ、これぐらい……」
ポルナレフが焦ったようにアヴドゥルさんに止血するように頼むが、アヴドゥルさんは私が痛みを感じないように優しく傷口を塞ぐだけだ
おそらく勘のいいアヴドゥルさんは分かっている、この出血じゃ、もう無理だと
なにより、抉られた部分が多過ぎる……こんなの誰が見ても無理だと思うだろう
「……クゥン……」
「…イギー……」
横になっている私に、寄り添うようにイギーが近付いた、そしてまるで私を励ますようにペロペロと顔を舐めてきた
それを見てか、アヴドゥルさんが私の頭をゆっくりと撫でた、まるで子供を落ち着かせるようにゆっくりと
「アヴドゥル……さん……ごめん……なさい……油断してた……ゲホッ……」
「いいんだ、喋るな」
「……花京院…く……が……危ないか……ら……ゲホッ……守ってあげて……ッ……」
「……花京院が?」
「うん……花京院……君、きっと……DIOに…ッ…殺される……そうならない……ためにも……なるべく……DIOと……距離を……」
「……分かった」
アヴドゥルさんに花京院君の事を伝えると、なにか分かったような顔をしてアヴドゥルさんは頷いた
アヴドゥルさんの言葉を聞いて私は一度目を閉じた
まだ私の心臓はドクドクと存在を主張している……まだ時間はあるみたいだ
「ポルナレフ……ッ……」
「ッ!!ナマエ……」
目を開けて、自分を責めるような顔をしているポルナレフに向かって私は手を伸ばす
気管支に血液が流れてうまく声が出せなかったが、ポルナレフには聞こえていたようだ、慌てた様子で私の手を掴んだ
「……ポルナレフ……アンタのせいじゃない……よ……ッ……私が油断したんだ……だからさ……そんな……顔しないでよ……」
「……ッ……すまねぇ……ナマエ」
ゆっくりとポルナレフの手を握りながらそう言うと、まるで子供のように泣き崩れるポルナレフ
きっと、妹さんと私を重ねてしまっているのだろう……そんな事気にしなくてもいいのに……
そんな顔を見たいんじゃないんだ、ポルナレフはいつもヘラヘラ笑っていたじゃないか
「せめて、笑ってよ……」
弱々しくそういうと、ポルナレフはまた涙を流した、そんなポルナレフの顔を見ると私まで泣けてきてしまう
視界が涙で歪んで、頬を暖かい液体が流れると、それをイギーが舐める
心臓の音が、弱くなってきた……そろそろ私は死ぬだろう、死ぬと何処へ行くのかな……
そう思いながら、私はポルナレフの濡れた頬に手を添えて
「……なかなか……楽しい旅だった……よ」
ゆっくりとそう言うと、フッとまた力が抜けた
目の前が眩んで、アヴドゥルさん、イギー、ポルナレフの顔が歪んでいく、さっきまでうるさかった心臓の音が完全になくなった
(ポルナレフ視点)
「……ナマエ……」
呆然としながらナマエの名前を呼んだが、返事は返ってこなかった
そして、アヴドゥルが俺の肩に手を置いて、目で先に行くと言っていた
ナマエと離れたくなかったが、俺はゆっくりとナマエの手にキスを落として、腹の上に組ませた
還って来ないと分かっているが、どうしても神様とやらに願いたかった
ナマエとまた会えるようにと
掌……懇願(心をこめて丁重にお願いすること)