10000HIT御礼企画
□12、腕
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12、腕
縁側でボーッとしていると、ドタバタと大きな音が響いた、またか……と、半ば溜め息をつきながら音のする方を見ると、思った通り、幸村が険しい顔で廊下を歩いていた
傍にあったお茶を少し飲んだあと、幸村の方を向いて、辿り着くのを待つ
「幸村、あんまり大きな音を出すとまた佐助に怒られるよ?」
「ぬぅ……大丈夫でござる!!これでも某は佐助の上司!!」
「そう言いながら怒られたの何回目よ」
「……ぬぅ……」
幸村の言葉にツッコミを入れると幸村は少し困ったように眉毛を下げて唸った
そんな幸村の頭をポンポンと撫でて、またお茶を飲む
そんな私の隣に幸村はドスンッとまた大きな音を立てて座った
「それにしても、幸村、アンタ少し汗かき過ぎじゃない?」
「男子たるもの、日々の鍛錬を休む訳にはいかぬ!!」
「そう言って……肝心なときに動けなくならないでね」
「うむ!!」
幸村は力強く返事をして、大きく頷いた、こんなに気軽に話しているが、実はいうと私は武田の傭兵、幸村より低い身分だ
なのに何故私がタメ口で幸村に話しているのか……実は幸村がまだ小さい、弁丸の時からの知り合いで、どうしてもタメ口が直らないのだ
それを知ってか知らずか、お館様も気にしていないようだ
「それにしても、ナマエ殿、最近この縁側に居る事が多いでござるな」
「んー?まあ、目が離せない上司の監視も兼ねて?」
「誰でござるか?そのような者、いないと思うが……」
「…………まあ、いいや」
本当は幸村の事なんだけど、本人に自覚がないからとりあえず放っておく
そんな会話も含めて、幸村とのんびりと話をしていると、私達の背後に人の気配がした
ゆっくりと振り向くと、予想通り、佐助が座っていた
「お二人さん、仲がよろしい事で」
「佐助ェ!!」
「なんでいつもいつも背後に来るの」
「いやぁ、これが忍ってもんでしょ?」
佐助の登場に、それぞれの反応をすると、佐助はさも当然のように私達の隣に座った
身分はどうしたのかと思うが、幸村もお館様も、身分とかそう言うのはあまり気にしない方なので、まあ、いいかと思ってしまう
「ナマエちゃん、このお茶美味しいね」
「そうでしょ?……って、それ私の飲みかけ……」
「なっ!?佐助ェ!!何をしているのだ!!」
「あはー、うっかりしてた」
「嘘つけェェ!!この破廉恥忍が!!吐けェェ!!」
「わーッ!!ちょっ!!やめてッ……本当に吐く!!」
唐突に佐助がお茶の事を話したが、この破廉恥忍はあろう事か、私の飲みかけを飲んだのだ
慌てて吐かせるため、腹部を重点的に殴っていると、妙に幸村が静かなのに気が付いた
こういう時は幸村は破廉恥と騒いで佐助を殴る筈なのに……
そう思っていると、幸村は何故か手にあった私の湯呑みを自分に向けて倒した
無論、中にあった私の飲みかけのお茶は幸村にかかる
「ぎゃぁぁ!!なにしてんの幸村!!」
「旦那ァァ!!勘弁してくれよ!!拭く物持ってくるから!!その状態で動かないでね!!ナマエちゃん、見張ってて!!」
何を考えているのかさっぱりわからない幸村を見張るように佐助に言われ、私は戸惑いながらも幸村に近付いた
「幸村……?どうしたの?」
幸村の訳が分らない行動に、そう言いながら、幸村の少し濡れた肩に手を置いた
その直後、幸村に腕を掴まれ、何故か肩に幸村の濡れた髪の毛が当たった
何が起きたのかさっぱり分からず、呆然としていると、幸村は真っ赤な顔で
「ナマエ殿は佐助ばかりでござる……今回は、佐助より早くナマエ殿に話したし、佐助より多くナマエ殿のお茶を被った!!だから……某ともう少し話してくれ……」
と、後半は競い合う必要があるのかと思う事を言ってきた、幸村のいきなりの言葉に私まで顔を真っ赤にしていると、幸村は限界が来たのか鷹の爪より真っ赤になって私にもたれてきた
衝撃的な事が同時に何度も起きるので、頭が混乱していたが、しっかりと幸村を支える
幸村は私の腕に顔を埋めたまま、恥ずかしいのか唸っている
丁度、佐助が手拭いを持ってきたとき、一瞬腕に柔らかい感触がしたが、多分気のせいではないだろう
後でしっかり幸村に話す事にしようと、雑に佐助に拭かれている幸村を見てそう思った
腕……恋慕(異性を恋い慕うこと)