10000HIT御礼企画

□3、瞼
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3、瞼


フワリと暖かいような冷たいような風が、私をすり抜ける

飛び降り防止のために付けられたフェンスに少し凭れながら空を見上げると、吹き抜けるような青色が一面に広がっていた


「まさか屋上が開くなんて……」


ほんの興味本位で屋上へ続くドアノブを捻ってみたら、開いてしまった

約二年間この学校にいて初めて知った事実だった

ドラマとかでは屋上に行けるが現実は違う、屋上行きの扉がなかったり、そもそもどこにあるか分からなかったりと数多くの生徒を騙してきた屋上に今私は立っている

数日前から体の調子が悪く、次の授業を休もうと保健室に向かった筈だが何故か屋上行きの扉に辿り着いた

でもまあ、保健室に行っても先生はいないし、次は体育だし、別にいいか……


「はぁ……なんか暇だなぁ……」


思わずそう呟いた時、返ってくる筈のない返事が来た


「なら、一緒にプリンでも食べるか?」


一瞬耳を疑ったが、周りを見渡すと、目立つ金色が見えた

腹筋を使い起き上がったのは、この学校の色んな意味の有名人、平和島静雄君

少し驚いていると、平和島君は少し錆びているベンチからプッチンプリンを投げてきた


「暇なんだろ?俺も暇だし、プリン二個買っちまったし、一緒に食おうぜ」

「……え……あ……うん」


平和島君の言葉に釣られるように返事をしてから少し後悔をした

平和島静雄君、自動喧嘩人形とも呼ばれて、ほぼ毎日他の学校の不良と喧嘩をしている、不良の中の不良だと友達から聞いた

そんな不良の中の不良がプリンなんて……不釣り合い過ぎる!!

内心、逃げ出したい気もしたが、平和島君は少し離れた位置に座り、プッチンプリンを食べ始めた、それに続いて私もゆっくりと咀嚼する

フワリと甘い味が口一杯に広がり、屋上の風がまた吹く、極上の時間とも言える気持ちのいい瞬間だった


「お前、何年だ?」

「え?……あっ……二年」

「ふぅん……じゃあ、俺と一緒か……」

「……そうだね……」


早くもプリンを食べ終わった平和島君は私に質問してきた、それを戸惑いながらも答えると平和島君はまたボーッと空を見上げた


「……平和島君は、いつ屋上に入れる事に気がついたの?」

「ああ?……まあ、一年の後半か……フラフラーっとしてたら着いた」

「フフッ……じゃあ私と一緒か……」

「顔色悪いのにフラフラしてんなよ、倒れたらどうするんだ」

「大丈夫大丈夫、倒れる程体調悪くないし」

「……本当かよ……辛かったら言えよ」

「……うん」


視線は空に向けたまま、そんな会話をする、平和島君は話してみると普通の優しい子でなんとなく落ち着く気がした


「……少し憧れるな……お前のその体質」

「えー?貧弱のどこがいいのさ……むしろ、平和島君の力強さが憧れる」

「……俺の事知ってるんだな」

「うん、ちょっとした有名人だしね」

「……お前、名前は?」

「……ナマエ」


私もプリンを食べ終えて、空の容器を傍に置きながら平和島君の言葉に微笑みながら返す

少し低めの声はなんとなく私の心を落ち着かせてくれて、心地が良かった

平和島君が、私の名前を覚えるように呟いた時、授業終了のチャイムが鳴った


「じゃあ、私行くね、プリンありがとう、今度またお返しするよ」

「……ああ、じゃあなナマエ」


そう言いながら私と平和島君は別れた筈だったが、急に平和島君が私の手を掴み、引っ張った


「?平和島君……?」


いきなりの事で思わず目を瞑った瞬間、瞼にフワリと柔らかい感触がしてすぐに視界が明るくなった

目を開けると少し顔が赤い平和島君が立っていて、ようやく何をされたか気が付いた

そして、お互いに顔を赤くして向き合っていると、少し吃りながら平和島君が


「……今度じゃなくて……良かったらよ……今日、一緒に帰らねぇか?」


と、言ってきた、私はそれを聞いて、また少し赤くなった顔で頷いた




瞼……憧憬(あこがれること、また、あこがれ)
 

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