Short2

□噛み跡
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ドレッドヘアが特徴的な私達の上司が思わずくわえようとしていたタバコを落としたのを視界の隅で見ながら私は全身が重くなっているのを感じながら溜め息をついた

するとフワリと金髪が私の首元に優しく触れた、思わず手でそれを退けると今度は手を掴まれた


「……静雄君、君は今何をしているんだい?」


戸惑いながらも軽い口調でそう聞くが返事はない、普段は聞き分けのいい後輩の静雄君なのだが何故か今回は私の言葉も聞いてくれない

彼がこんな事をする理由が何かあるのかと思い、ここ最近の私が静雄君にした事を思い出すがどれもこれも特に変わった事はなくますます首を捻る事しかできなくなった

思わず唸っていると急に今まで少しくすぐったかった首元にズキリと痛みが走った、思わず肩をビクつかせ静雄君が何をしたのか見てみる

音に例えるならガジガジもしくはガブガブだろうか、こともあろうに静雄君は何故か私の首元に噛み付いていた

一瞬思考が停止してしまったが再起動した頭で私は必死に静雄君に声をかける


「静雄君!?本当に何がしたいの!?」

「……」


慌てた声でそう聞くと静雄君はチラリと私を見てからゆっくりと首元から口を離した、これで一安心かと思ったのも束の間、静雄君は今度は別の部分に噛み付いていた

肩に先程と同じような痛みが走る、人の体をなんだと思っているのか、その姿はまさに犬か狼で私はパニックになるだけだった

恐怖か諦めか、何も言わなくなった私に急に静雄君が肩から口を離して話しかけてきた


「……すいませんナマエさん、なんか本能っスかね……」

「……どんな本能ですか静雄君」


申し訳なさそうに私を横から覗き込みながら話してきた静雄君に私はゲッソリしながら答える

静雄君はまたか細い声で謝ってきたが私はそれに答える気力がなかった、チラリと視線だけ肩に向けるとそこには若干くっきりと静雄君の噛み跡が付いていた

これはしばらく湿布か何か貼った方がいいかもしれないなと思いながら溜め息をついて静雄君に何故こんな事を急にしたか聞いてみる事にした


「なんで急にこんな事をしたの?」

「……ナマエさん、いつも俺に対して普通過ぎるんスよ」

「……はい?」

「だから正直な所、こんな風に突拍子もない事されたら少しはナマエさんが俺の事見てくれるんじゃねぇかって思いまして……」


スラスラと理由をいつものように素直に話し出す静雄君、その目にはなんとなく子供じみた雰囲気が溢れていた

いつも通りに簡単に接しられるのが嫌だったと言う理由はなんとなく笑ってしまう、私は以前よりちょっと子供っぽくなった静雄君の頭に手を置いた


「こんな事しなくても一言いつも通り素直に言ってくれればよかったのに」


笑いながらそう言うと静雄君もへラリと笑い出した、その後トムさんが救急箱から持ってきてくれた湿布を貼り一段落ついた

だが静雄君は私が定時になって帰るまでずっと傍にいた、そんな静雄君に私は少しだけ冗談のつもりで帰る時に静雄と呼び捨てにしてみた

その直後静雄君は持っていたボールペンを怪力でへし折り、インクまみれになってもポカンと私を見ていた
 

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