Short2
□店員の憂鬱
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「そうねぇ……じゃあこのマカロンを貰おうかしら」
私が街中にある小さいお店に就職してから初めて接客したお客さんがいる、その人は随分と個性的な格好をしていたのだが話してみると優しい人だと分かった
その人がいつも買うのは決まってマカロン、きっとこのお店の甘いマカロンが気に入ったのだろう
もう袋詰めされているマカロンをケースから取り出し、紙袋に入れて代金を受け取りながらそのお客さんに渡す
するとその人は決まって笑顔でこう言うのだ
「ありがとうね、また来るわ」
すっかり常連さんになったようでその人は週二、三回ほど来るようになった、時々はお店の中でお菓子を頬張る姿も目撃している
私はその人が店に入ってくる姿を見て、出ていく姿まで見守るのだが、帰りはいつも少し気分が良さそうだった
どうやら私の出勤の時間とその人が来る時間は被っているようで、その人を見ない日はほとんどない
「いらっしゃいませ、今日もマカロン、ですか?」
少し勇気を持ってその人に話し掛けてみた、するとその人は二、三回瞬きをしたあとクスリと笑って
「ええ、いつもありがとう」
と礼を言うのだ、私はじんわりと心があったまる感じがして思わず笑ってしまった
いつものように紙袋に入れたマカロンを渡し、代金を受け取る
その日は店から出る時いつもより機嫌が良さそうに見えたのは気のせいなのだろうか
「今日も来なかったなぁ……」
それから二、三週間後、ある日を境にパッタリとその人の姿を見なくなった、もしかすると何処かに引っ越してしまったのかもしれない、だが最後に店に来た時はいつもの会話を交わしたのだ
「ありがとうね、また来るわ」
いつものように笑顔でそう言ったのに、その人はもう何日も来ていない、事故かなんかにあってしまったのかと思うが最近そんな話は無い
至って普通の日々の中であの人は何故来てくれないのだろうか、あんな個性的な格好のくせに何故来てくれないのだろうか
私は沢山くる客を捌きながら今日も来てくれないと小さく溜め息をつくのだった
もしかすると何処かのお店に蔵変えしてしまったのかもしれないと一瞬嫌な考えをしたが街中でマカロンを扱っているのはここぐらいだ
「はぁ……常連さんが居なくなると悲しいなぁ……」
そう呟きながら私は仕事を終え店を出た、店長が最近元気がないと心配していたが何もないとその場は凌いだ
街中でバッタリ出くわすとかないだろうかと思いながら私は"ゲルテナ展覧会"と言う大きな旗が立ててある美術館を尻目に帰り道を歩く