Short2

□威圧感
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目の前には給湯室の扉にもたれ威圧感を発する上司、背後には全く沸く様子のないヤカン……この状況は一体なんなのか

私が思わず固唾を飲んだ時、ニヤリと口元を釣り上げた片倉さん、なんだこの人はなにがしたいのか、私を閉じ込めて自分の血肉にしようとしているのか

物騒な事を思った時、片倉さんはゆっくりと口を開いた


「まあそうかしこまるなよ、猿飛と話していた時のように軽く話そうぜ」


そう言ってきた片倉さんだが私にとっては片倉さんに向かって軽く話すなんて万死に値する事なのだ、なりより怖い

私は恐怖を吹き飛ばすように軽く笑いながら


「軽く……ですか……ハハッ……」


と少し震えた声でそう返した、そんな私の言葉に片倉さんはつまらないような悲しいような表情をしてからゆっくりと扉から離れて私の方に向かって来た

思わず身構えてしまった時、片倉さんは私の肩を掴んだ、思わず声が出てしまったのは仕方がない

何をされるのかと思った時、タイミングよくヤカンが湯が沸いたことを知らせた、片倉さんに早口で一言言ってからヤカンの火を止めた時、今度は後ろからガシリと肩を掴まれた

は……背後を……私の背後を取りやがった……!!なんて奴だ……!!

なんて自分でも軽く引くような台詞を思い浮かべてしまった時、片倉さんは溜め息混じりに


「そう怯えるなよ……」


と呆れたように言ってきた、確かに少し失礼な事をしてしまったのかもしれないと自分で少し反省して、小さく謝る

すると片倉さんは片手を私の肩から離し、ポンポンと頭を軽く叩くように撫でてきた

これがギャップ効果か、なんて思ってしまった時、片倉さんは少し意地の悪い提案をしたような声で


「許して欲しかったら一回でいい、俺の事を名字じゃなくて名前で呼んでくれねぇか?ナマエ」


と冗談にもならない事を言ってきた、そんな片倉さんの言葉に私は思わず気の抜けた声を出してしまう


「ちょっ……片倉さん!?」

「片倉じゃねぇ、小十郎だ」

「いや……でも私は貴方の部下でして……」

「猿飛の事は名前で呼んでただろうが」

「それは佐助が敬語はやめてって言うから……」

「俺だって一度だけでもいいから名前で呼んでくれって言ってんじゃねぇか」


私の言葉は軽々と片倉さんに論破されていく、焦りで思わず汗をかいてしまうがそれを拭く余裕は私にはない

片倉さんは徐々に私の痛いところを突いて、佐助との会話の事を話してくる、確か佐助と片倉さんは同期だった気がする、佐助は良くて何故自分はダメなのか、その事を続けて話していけば確実に私の返答は"はい"になるだろう


「か……片倉さん……」

「……」

「言わないと……ダメですか……?」

「ああ、ナマエが今夜残業したいなら言わなくていいがな」

「言います!!」


片倉さんの残業と言う言葉に私は思わず言うと自分から言ってしまった、後から押し寄せてくる後悔で一杯になった

だが言うと言ってしまったからには言わなくてはならないだろう、そう思っていると片倉さんはゆっくりと私の体の向きを変えた

当然私と片倉さんは向かい合う体制になる、一歩下がりたいと思ったがもう腰にはコンロの無機質な感触が伝わっている、下がる事は出来ない

私はようやく腹を括り、少し震えながら片倉さんの方を向いた


「あ……こ……小十郎……さん」


自分でも驚く程震えた声で片倉さんの名前を呼んでしまった、バクバクと心臓が激しく脈打った時、片倉さんの手の力がスッと抜けた気がした

私はその隙に恥ずかしさから抜けるため、片倉さんを軽く押し退けて給湯室を飛び出した

それから光の速さで自分のデスクに座り、隣で不思議がる佐助を無視して私はデスクに伏せった

きっと私は今、顔が真っ赤になっているだろう、これから片倉さんと目を合わせれないかもしれない

そう思った時、コトリとコーヒーカップがデスクに置かれた、ゆっくりと顔を上げると、ほんのりと赤い顔をした片倉さんが仏頂面で立っていたがすぐに自分のデスクに戻って行ってしまった

片倉の旦那がコーヒー煎れてくれるなんて珍しいね、なんて関心したように呟く佐助の声を聞きながら私はコーヒーを一口飲んだ

不思議とバクバクと脈打っていた心臓がゆっくりと正常に戻っていった、今思えば何故片倉さんは私が佐助の事をタメ口で話しているのを知っているのだろうか、片倉さんとデスクは遠いのに……

一瞬そう思ったが片倉さんの顔を思い浮かべた時また心臓がバクバクと脈打ったのでしばらくは考えない事にした、きっと恐怖心を植え付けられてしまったのだろう

そう思い私はコーヒーカップから口を離し、溜め息をついた
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