Short2

□大切な思い出
2ページ/2ページ



ニュースでは、今日が一番紅葉が綺麗に染まっている日だとか、秋なのにポカポカした一日だとか言っていた

ナマエの見舞いを行ったあの日以来、俺は受験でなかなか見舞いに行けなかった

母親からは俺が受験を受けようとしている時、ナマエは手術を受けたらしい

だが、それっきり連絡が無いと言う

あの家族が大切な人に言わない事はないことを知っているが、もしかしたら……なんて事を考えてしまう

受験の合格通知をもらった帰り道、俺は何気なく公園に入った

昔からあまり変わっていない風景、変わったと言えば塗装ぐらいか……

そんな少し記憶とは違いがある公園のベンチに座り、ボーッと空を見上げた

真っ青な空で、この色を反射している海も同じ色なんだろうと思う


「……海……ナマエは行ったのか?」


ふと、ナマエの事を思い出す、アイツは体が弱いからもしかすると海に行ってないのかもしれない

もし、行ってないのなら連れてってやれば良かったと少し後悔をする

俺がナマエを信じないでどうするのかと考えながら、俺はナマエと遊んだ日々を思い出す

そう言えば、今日は紅葉が一番色付いている日だってさっきニュースでやっていたな

もみじが好きなナマエなら、この日が楽しみで仕方ないだろう

俺はゆっくりとベンチから立ち上がり、もみじの木に近づいた

すっかり、ボロボロになっても、まだまだ赤い葉を綺麗に広げるその木は、よくナマエともみじ拾いをした木だ

あれからすっかりデカくなった身を屈めて、落ちているもみじを一つ掴む

見てみると運がいいのか、傷一つ無い、綺麗なもみじが手の中にあった


「……綺麗だな」


思わずそう呟きながら俺はそのもみじをナマエがやっていた様に、太陽にかざす

キラキラと日光が当たり、真っ赤なもみじは先程よりもっと赤さを増してとても綺麗だった

これを見て、ナマエは何を思っていたのかとまた、ナマエの事を考えてしまう

アイツならきっと大丈夫だ、多分ドタバタして、連絡ができないだけだ

そう、自分に言い聞かせていると、ポケットに入れておいた携帯が震えた

もみじを手に持ったまま電話に出る、母親からだった

どうやらナマエの両親と連絡が取れた様で、ナマエは無事手術を終えたと言っていた

俺の予想通り、リハビリや手術費の事でドタバタしていたようだ

俺は自分でも驚く程、ナマエが無事という事に安心していた

涙が出そうになったが、親に礼を言って、電話を切った

それから、合格通知を忘れずに持って、ナマエの病院に向かった

幸い、この公園から病院は近い、俺は息が切れようとも走り続けた

病院が見えた時、出入り口に人だかりが見えた

ナマエだ

おそらく今日が退院なのだろう、ナマエが看護師や医師、他の患者から花束を受け取っている

すっかり元気になっているナマエを見て、俺は少し驚かしてやろうと思い、出入り口には向かわなかった


「本当にありがとうございました」


丁寧に挨拶をして、一人で多くの花束を抱えているナマエが出てきて、家に続く道を歩いていた

俺は、その曲がり角でナマエを待った


「ナマエ」


丁度曲がった時、俺はナマエの名前を呼んだ

俺の声にナマエは目を見開いてこっちを見た

俺はそのまま、持ってきた真っ赤なもみじをナマエに渡して


「退院おめでとう」


と、短く言った、ナマエはそれを聞いて、ポロポロと涙を流した


「元親……ありがとう……」


ナマエは涙声でそう答えてきた、俺はそのままゆっくりとナマエを抱き寄せて


「これからも、ずっと俺といてくれねぇか?専門学校卒業式した後も……ずっと……」


と、言った、とてつもなく恥ずかしかったが、今はナマエに俺の顔が見えないので、少しは気が楽だ

多分、面と向かってこんな事は言えないだろう

ドクドクと激しく脈打つ心臓を感じながらナマエの答えを待った

少しして、ナマエも恥ずかしいのかとても小さい声だったが、しっかりと


「ふつつかものですが、よろしくおねがいします」


と、言ってくれた、俺達はそのまましばらくの間、抱き合っていた

公園から風に運ばれてきたのか、もみじが舞っているのが見えた
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ