Short2

□大切な思い出
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(元親視点)


ナマエと言う女は人生を謳歌していなかった

いや、謳歌出来なかったの方があっているだろうか

元々ナマエは体が弱く、病気をすぐに引く奴だった、何故そんな事を知っているのか……俺がナマエの幼馴染みだからだ

昔からアイツは病弱と呼ばれていた俺より弱く、見ているだけでも心配する程だった

でも、アイツは外が大好きで、よく俺を連れて外でワイワイとはしゃいでいた

春は公園で桜の花びらを拾い、家の窓から一気に撒き、夏は虫取り、秋はもみじ拾い、冬は雪合戦と、春夏秋冬外で遊んでいた

特にナマエが好きなのは、もみじ拾いだった、真っ赤になったもみじを拾い、太陽の下にかざすと、キラキラと光っているのか、ナマエは目を輝かせるのだ

そんなナマエの姿が俺は好きで、秋だけは自分から付いて行った

そろそろ夏も終わり、ナマエの好きな秋に入る……だが、皮肉な事にナマエはその好きな季節に手術をするのだ

少し重い気分になりながら、俺はリンゴを買って、ナマエが入院している病院に向かった


「あら、長曽我部君、今日も来たのね」

「おう」


いつもの看護師に挨拶をして、階段を上がる

ナマエは五階の真ん中の病室、完全個室の病室だ

コンコンと、いつものようにノックをすると、ナマエの声が聞こえた


「よォ」

「あ、元親」


ドアを開けながら挨拶をすると、ナマエは窓の方を見ていたのか、振り向いてこちらを見た

昔はチカちゃんと呼んでいたが、もうそんな歳じゃない、これでも高三だ

少し物寂しい気もしたが、俺はそのままナマエのベッドの横に座る


「それリンゴ?」

「ん?ああ、切ろうかと思ったけど肝心のナイフ忘れちまった」

「元親らしいね……えっと……確か台所にあったよ、取ってくるよ」

「いや、お前は寝てろ、病人がそう動き回るもんじゃねぇよ」

「……ちぇっ」


果物ナイフを持って来ようとベッドから降りようとするナマエを手で制して、俺はリンゴを渡して果物ナイフを取りに向かった

目がチカチカしそうな程の真っ白な台所は、全く使われた様子がない

おそらくここは、手洗い場として使われているのだろう

そんな事を思いながら、棚から果物ナイフと小皿とフォークを取り、ナマエの手からリンゴを貰う

シャリシャリと、リズミカルに皮を剥いていると、ナマエが俺の頭に手を置いてきた


「また背伸びた?元親」

「気のせいだろ、最近は受験だなんだであまり来れなかったからな」

「何言ってんの、週三位のペースで来てたじゃん」

「そうだったか?あんま覚えてねぇや」

「またまたァ」


本当は覚えているが、なんだか少し照れ臭かったので誤魔化した、だが多分ナマエは分かっているのだろう、クスクスと笑っている

俺は気にしていない雰囲気を醸し出しながらリンゴを切っていく

丁度、全ての皮が綺麗に剥けた時、ナマエはまたぼんやりと窓を眺めて


「実はさ、ちょっと怖いんだ……」

「あ?」

「手術……ちょっと怖い」

「……そうか」

「笑っちゃうよね、治る治るって言われてずっと治療してきたのに、急に手術って」

「……そうだな」

「……元親、私、ちゃんと治せるかな」


ナマエが少し悲しそうな顔をしてそう言ってきたが、俺は何も言わなかった

何も言えなかったのかもしれない、頑張れと言ってもナマエは聞き慣れているのかも、じゃあ何を言えばいいのか……

そんな事を考えていると、リンゴを切り終えた


「……まぁ、未来なんて誰も分からねぇから何も言えねぇよ……ナマエはただ、俺の持ってきたリンゴを食えばいい」

「命令系なんだ」

「気にすんな、いいから食えよ、体力付けてねぇからそんな弱気になるんだろうが」

「……そうだね、ありがとう」


ナマエにそう言って、リンゴが刺さったフォークを渡すと、クスリと笑いながらお礼を言って受け取った

俺はナマエが食べている間、ゴミを捨て、また隣に座った

そして、外を見るフリをしてナマエを見つめる

前会った時より今日は少し顔色がいいな……相変わらず病弱だけど、まあ、今日は元気な方だろう

少し安心して、俺は大きく溜め息をついた


「うめぇか?」

「うん、美味い……蜜いっぱいだよ」

「そりゃあよかった」

「……学校はどう?」

「まあ、いつも通りって感じだな」

「そっか……」


リンゴを二、三個食べて、ナマエはフォークを置いた、そして俺に学校の事を聞く

ナマエは高校に入ってから酷くなった為、高校生活が気になるのだろう

俺が高一になり、学校生活に慣れてきた時は、それはもう色々な事を喋った、そんな俺をナマエはあのキラキラとした目で一生懸命見つめるのだ

それが嬉しくて、ペラペラと喋っていたが、今は受験シーズン……皆切羽詰って正直ナマエに話してもつまらないだろう


「元親は確か、専門学校行って、就職だよね」

「おう、大変だとは思うけど、俺は絶対その道を行く」

「頑張ってーチカちゃん」

「お前ッ!!……ちゃんはやめろよ!!」

「フフフッ……チカちゃーん」

「このッ……はぁ……もういいからリンゴ全部食っちまえよ」

「照れてるの?」

「ちげぇよ馬鹿ッ!!」


ナマエとそう言い合いながら、俺は傍に置いておいた鞄を持った

そして、ナマエに一言言ってから俺は病室を出た
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