Short2
□薄味パスタ
1ページ/1ページ
さっきからやたらリゾットさんの声が遠くに聞こえる、まるで私を慰めるような声色だ
「言っていいものかと迷ったが……これだけは言っておく……プロシュートは"もし自分に何かあったら気にせずに忘れてくれ"と言っていた……すぐに忘れろとは言わない……気負わずにな……」
気まずそうにそういうリゾットさんの言葉が理解できなかった
「……大丈夫か?」
「はい…………大丈夫です……すいませんでした……」
リゾットさんの言葉に思わず謝ってしまった、何に対しての謝罪なのか、私自身分からなかったが、リゾットさんはそのまま静かに返事をして電話を切った
きっと、もうこの電話番号は繋がらないだろう……プロシュートがどんな仕事をしていたのかは詳しく教えてくれなかったが、なんとなくそんな気がした
「……あ、パスタ、茹でっぱなしだった」
電話から無機質な音が流れるのをしばらくボーッと聞いていたら夜ご飯にと茹でていたパスタの事を思い出した
まだ少しクラクラする頭で、私はキッチンに向かって茹でっぱなしのパスタを鍋から取り出す
適当に皿に盛って、同時にお湯に入れておいた簡単に作れるソースをかける
ソースのいい匂いが部屋に充満する中、私はテーブルにパスタを置いて、飲み物を置いてから椅子に座った
「……」
少しの間パスタを無言で眺める
さっきまでお腹がペコペコだったのに急に食欲がなくなった
そう言えばプロシュート、今度久しぶりに私の手料理が食べたいとか言ってたなァ……前食べさせたら「俺の作る料理の方がうまいな」とか、馬鹿にしてきたくせに……
行儀が悪いが机に頬杖を付きながら一週間程前のことを思い出す
……プロシュートの髪型、結局どう結んでいるのか分からなかったな……
「プロシュート〜」
「んー?なんだよ」
「よくこんなセットが難しそうな髪型してるね」
「ハン!!お前が不器用なだけだろ?」
「えー?知らないのプロシュート?私がディ・モールト器用だって事」
「ほォ……じゃあ今度機会があったら髪の毛結ってもらおうか?ナマエ」
「…………」
「どうした?」
「……いや、ナンデモアリマセン」
「嘘も程々にな」
「……プロシュート女子力高い」
「お前が低いんだよナマエ」
ソファーに座るプロシュートにそんな事を言いながら話した事もあった……
でももう、それが出来ない事だと気付くと私は目尻が熱くなった
「ッ……食べちゃお、冷めちゃう」
そう言いながら私は涙をこらえてパスタを口に含んだ
ゆっくりと咀嚼すると、急に電話がかかってきたからか、少し茹でる時間を間違えて少し薄い味になっていた
「薄っ……」
飲み込みながらそう呟き、私はそれでもまた口に含む
咀嚼を繰り返す度、さっき突きつけられた真実を思い出す
もう二度と、プロシュートには会えない、もう二度とプロシュートと話せない、もう二度とあの大人びた笑顔は見れない……
まるで走馬灯の様に次々とプロシュートの事が頭に浮かぶ
なにが忘れてくれだ……忘れられないよ……だって、仕事から帰ってきたら必ず煙草の匂いが染み付いたスーツで私を抱き締めてくれてたんだから
「ナマエ、そんな強く抱き締めるなよ、苦しい」
「いいじゃん、だってプロシュートのこの匂い好きだもん」
「ハン、匂いフェチとは……またアブノーマルな趣味してるな」
「匂いフェチじゃなくて、プロシュートの匂いがいいの」
「……わかったから離れろ」
「あれ?もしかして照れた?」
「照れてねぇ、いいから離れろ匂いフェチナマエ」
「だからー匂いフェチじゃないってば」
そんな事を言い合いながら一緒に晩御飯を食べた事もあった……
プロシュートの煙草の匂いを思い出した瞬間、さっきまでの薄味パスタが急に塩っけが強くなった
そんな濃い味になったパスタをゆっくりと飲み込んで、私は漏れてくる嗚咽を抑えたが、どうしても目から溢れ出てくる涙は止めれなかった