Short2

□泣き蟲
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(臨也視点)


コトリと乾いた音を立てながらコーヒーカップをナマエの前に置く

そして、俺が座ったあとナマエは小さい声で礼を言ってからコーヒーカップに口をつける


「なにこれ……甘ッ……」

「疲れた時は甘い物をってね、で、どう?落ち着いた?」


コーヒーを飲むや否や顔をしかめながら甘いと言ってきたナマエにヘラヘラと笑いながらそう聞く


「ほんの少しだけね……アンタの顔見てたらぶっ飛ばしたくなってきた」

「ハハッ!!……それは俺を?アイツを?」

「両方」

「酷いなァ……これでも俺はナマエを慰めているんだよ?礼を言われる事は当たり前として、ぶっ飛ばされるなんて酷いモンだよ」

「それはそれは悪うございました、クソ甘いコーヒーどうもありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」


嫌味っぽく言ってくるナマエの言葉を微笑みながら返すと、コーヒーのせいでしかめていた顔をもっとしかめるナマエ

そして、何かを言おうとしたが俺の前では無駄だと分かったのか、黙って文句を言いながらコーヒーを飲み続けた


「でも、ナマエも馬鹿だよねぇ、何回同じ過ちを繰り返すのさ」

「……うるさいな……」

「しかもどれも似たような男……分かってんじゃないの?ああ言う男はロクでもないって」

「…………分かっていたらこんな事にはならないでしょ……そもそも、アイツがあんなろくでなしだとは思ってなかったし……」

「ふぅん……」


ナマエはつい先程、彼氏と別れたところだ、どうやら彼氏が二股をかけていたようで、他の女と歩いているのを見て大喧嘩……結果、散々相手に暴言を吐いてナマエは泣きながら俺のところに来たのだ

しかも驚く事に、これが初めてでは無い、以前に何回か同じ事を起こしている

最も、原因はそれぞれ違うが……浮気、借金返済の為に利用、DV、超異常性癖者……どうしたらそんな男と巡り合えるのかと感心するぐらいの量だ

でも、普通の人物とも付き合った事もある、が、すぐに別れたらしい……なんでも彼氏がナマエを見るや避けるようになったと……いやあ、情報って怖いね

そんなナマエと俺は同級生、同じ学校に行き、少し話が合ってから度々話すようになって友達に……所謂、友達以上恋人未満って関係


「で、どうすんの?荷物も持たずに……」

「……臨也付いてきて」

「…………いくらくれるの?」

「うぅ……友達に金を請求するなんて……なんてやつだ……」

「下手な小芝居いらないから……まあ、別に今回だけはタダにしてやるよ、捨てようと思っていたコーヒー飲んでくれたしね」

「えっ!?捨てようと思ってたの!?」


そう言いながらナマエと共に立ち上がる

どうやら、飛び出してきたのはいいけど荷物を置きっぱなしにしていたようだ、なんとも馬鹿げてる……

少し溜め息をつきながらマンションを出て、タクシーを呼び、ナマエの元カレの家に向かう

あんなロクでもない男とよく同棲なんてやったもんだ……変な事とかされてないだろうな……

一瞬ナマエの心配をしてしまったが、恐らくこれは今まで世話を見てきたから親の心配の感情と似ているような物だろう

そう心の中で決めつけて、俺は速いスピードで変わっていく景色をボーッと眺めていた


「……ここ……」

「ふぅん、寂れてるね」

「うん……」

「?……どうしたの?はやくインターフォン押しなよ」


古ぼけたアパートの階段を上り、何号室かの扉の前でナマエは緊張した表情で立っていた

インターフォンを押さないのか聞いても反応がないので、勝手に押すことにした


ピンポーーン……ッ


と、気の抜けた音が鳴った瞬間、ナマエは俺に何をしているの!!と怒鳴ってきた

が、それも遅い、もう押しちゃったから

そんなやり取りをしている間に、扉はゆっくりと開いた


「誰っスか」


いかにも馬鹿そうな顔で、馬鹿みたいな台詞を言ってきたナマエの元カレ

後ろにはどうやらナマエとは別の彼女がいるようで、女の声がする

俺に隠れるようにしているナマエに少しだけ気を使いながら、いつもの口調で話しかける


「こんばんわー、実は俺、ナマエの友達でね、どうやらアンタと別れたっきり荷物置いてったらしくて、取りに来ましたァ」


完全に馬鹿にしている気持ちがバレたのか元カレは顔をしかめて少し待ってろと言って扉を閉めた


「……臨也……」

「本当、ナマエの趣味がわかんないよ、あんな馬鹿みたいな男のどこがいいのさ」

「……優しかったし……」

「優しいだけじゃダメだよ〜しっかり全体を見ないとね」

「臨也に言われるとなんか腹立つ」

「はいはい、そりゃどうも」


さっきまでビクビクしていたのにナマエは俺に暴言を吐いた

だが、アイツの足音がすると異常なまでに肩をビクつかせて俺の後ろに隠れた


「……ナマエ……?」


なにかあるのかと聞こうとした瞬間、扉が半ば乱暴に開き、舌打ちをしながら元カレは荷物を置いた


「ほらよ、さっさと帰れ」


苛立ったようにそう言って、俺が荷物を取るのを待つように扉に凭れた

流石に俺が取るまでもないと思い、後ろにいるナマエに肘で伝えると、ビクつきながら鞄に手を伸ばした


「おい、お前、これから街歩くとき気をつけな、俺を散々侮辱した事後悔させてやるからな」


鞄を持ったナマエにわざとらしくドスの効いた声でそう言った元カレ

そんな、ありきたりの言葉を聞いて、ナマエは目を見開いて明らかに怯えていた

元々、怖い事、暴力は大嫌いな性格、今の言葉に少なくとも恐怖を感じたのだろう

そんな怯えたナマエを笑いながら元カレは扉を閉めた


「……い……行こうか、臨也」

「……」


元気に振る舞っているつもりなのだろうか、ナマエは明らかに震えた声で俺にそう言った

俺は何も言わずにナマエの後に続き、またタクシーを呼び、俺のマンションに向かった

なぜマンションなのかと目で訴えてきたナマエを俺は無視して行きの時と同じように外の景色を眺めた
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