Short2
□特等席から
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放課後、僕は日直で教室に少し居残りをしていた
銀八先生に日誌を提出して、帰る支度をする、今日は色々とショックな事が多かった……
そう思いながら誰もいない校舎を歩いていると
「あの……私は……」
「好きな人がいる事は重々承知です!!でも僕は好きなんです!!」
と、リア充達の声が聞こえた、思わず持っている鞄を投げ飛ばしたくなる衝動に駆られるが、女の子の方の声を聞いて動きを止めた
ナマエさんだ……きっと、神楽ちゃんが言っていた事だ……告白だろうって……
好きな人が告白されるなんて見たくない光景だ、でも僕の足は自然に声がする方に向かっていた
「お願いします!!」
「あの……」
男の方は頭を必死に下げている、そんな男をナマエさんは困ったように見ていた
普通の男ならここで間に入れるのだろうが、僕は弱かった……ただ物陰に隠れる事しか出来なかった
「あの……私は……もう好きな人はいるので……そう言う事やられると困ります……」
自分の無力さにショックを受けた途端、トドメを刺すようにナマエさんは言った
まさか好きな人がいたなんて……
僕はメンタルがズタボロにされ、視界が霞んできた
そんな僕を他所にナマエさんと告白した男子高校生の雲行きが怪しくなった
嫌がるナマエを無視して男子高校生はドンドン告白をしていく
これは流石に僕もマズいと思い、咄嗟に体が動いた
「あの……ナマエさん、嫌がっているんじゃないですか?」
そう言い、僕は男子高校生を睨んだ
急な事で男子高校生は驚き、一歩下がった、その隙に僕はナマエさんの手を掴み、階段に向かって走った
走っている最中、僕はなんだかドラマの主人公みたいな気分になった、でもナマエさんにはもう好きな人がいる……それだけは変わらない事実だった
階段を駆け下りると、男子高校生が追ってこないか確信して、ナマエさんの手を離した
「大丈夫だった?ナマエさん」
「うん……ありがとう新八君」
大丈夫か確認を取ると苦笑しながらナマエさんはお礼を言ってきた
その一言だけでも僕の心は宙に浮いた気がした
「えっと……良く分からないけど、ナマエさん、好きな人いるんでしょ?」
「えっ!?聞いてたの!?」
「あっ……うん……ごめん……聞こえちゃって……」
僕は自分の心を誤魔化すため、頭を掻きながらそう言った、するとナマエさんは顔を真っ赤にして驚いた声を上げた
それに謝ってから僕は泣きたくなる気持ちを抑えて
「あの……なんだったら手伝うよ?その人に気持ちを伝えるの……」
と、言った、僕はなんて卑怯なやつなんだろう、手伝ってナマエさんが失恋したら付き合えるキッカケを作ろうとしている……
そんな僕の最悪の計画も知らずにナマエさんは顔を上げた
「い……いいの?」
「うん、ナマエさんの為になるなら」
そう言って笑うとナマエさんはまた顔を赤くした
そして、少し考える素振りをしてから僕の方を見た
「じゃ……じゃあ……"三年生になって同じクラスで…貴方の優しさに触れて惹かれました……こんな私で良かったら付き合って下さい"……って……伝えてくれる?」
ナマエさんは僕の方を見ながらそう言った、でもその告白の言葉は僕に向けてじゃない、好きな人に向けてだ
一瞬僕に言ってくれているのかと錯覚したが、すぐに消えた
「うん……でも誰に?」
少なくとも三年Z組にはナマエさんが好きそうな真面目な人間はいない……それともそういう人間が好きなのかもしれない……
誰に言うのか聞くと、ナマエさんは両手で顔を覆い
「新八君……貴方に……」
と、言ってきた、くそ……新八君とやら……幸せだな……って……え?
一瞬、新八君とやらに嫉妬したがすぐに気が付いた
新八君……彼女はしっかりとそう言った、でも、新八なんて……新八は僕だ……
「え?……それは……どういう意味?」
聞き間違いかと思い聞き返すと、ナマエさんは僕の手を掴んで
「私が好きなのは新八君なの!!」
と、少し強めに言ってきた、その言葉に僕は一瞬思考が停止しかけた
でも、なんとか踏ん張り、僕はナマエさんを抱き締めた
驚くナマエさんに僕はそのまま離さないように力を込めて
「僕もです……ナマエさん……好きなんです……」
と、言った、きっと僕は今顔が真っ赤だろう……
ずっと特等席で見ていた君が僕の事を思っていたなんて夢にも思わなかった
返事を聞いてみると、ナマエさんは僕の背中に手を回した
しばらくそのまま僕達は抱き合っていた、ずっと我慢してきたのだからこれくらいはさせて欲しい
その日、僕とナマエさんの距離は一気に近付いた