Short2

□抱きしめて
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静雄はいつも私を抱き締めてくれない、せいぜい、手を握った事ぐらいしかやった事がない

いくら私が高校生だからって、そんな子供扱いして欲しくない……本当にこれ、付き合ってると言えるのかな……


「静雄くーん」

「あぁ?」


今はトムさんがいない事務所で静雄と話している

出会ったのは私が間違いでゴツイ格好の借金取りに追われている時だった、それからトムさんと静雄に助けられて、丁度バイトもクビになったので雇ってもらった


「静雄君は本当に私の事好きなのかい?」


一緒に仕事をして、私達は惹かれあって……付き合う事になった……

だから、抱き締めてくれない静雄にこんな事を言ってみたのだが……意外と恥ずかしい……

顔には出さず、未だ私に背を向けて書類を見る静雄を見ていると


「…………き……」

「ん?木?」


静雄は急に"木"と言ってきた、いや、木ってなによ……

そう思いながら、聞き返すと、静雄は今度は私の頭に手を置いて


「……好き……だ…………」


と、小さい声だったが私の耳には聞こえるように言ってきた


「……そっ……か……」


しっかりと、好きと言われたので今度は本当に恥ずかしくなり、顔を手で覆っていると


「なんで、そんな事聞くんだ……」


と、静雄は、また頭に手を置いて言ってきた


「……だってさ……静雄、私を抱き締めてくれないし…手を握った事ぐらいしかやった事がないし………そりゃあ、私もまだ高校生だけど……少しは……構ってほしいと言うか……」


静雄の言葉に私は覆ってる手を退けながら、ゆっくりとだがそう返した

すると、いつの間にか私の目の前にいた静雄と目が合った、慌てて逸らすと


「ごめんな、ナマエ……俺は力が強ぇから……ナマエを壊しそうで……怖いんだよ……」


と、顔を見なくても悲しい顔をしているような感じが伝わってくる声色でそう言ってきた


「一回だけでもいいから……抱き締めてくれない……?」


静雄が自分の力を嫌がってるのは知ってるし、分かってる……でも、何と言うか……付き合ってるし…正直な所子供扱いして欲しくない……

我ながら自分勝手とは思うけど、他の友達は皆抱き合うのは普通にやってるみたいだし……なんか、それだと私だけ付き合ってないみたいな気分になる

付き合ってると思ってるのは私だけ、静雄は普通に可愛がってるだけなのかも……

この頃……ずっとそんなことを思っている……

私の言葉を聞いて静雄は、サングラスの奥の目を見開いていた、ただ見開いていただけじゃない、少し戸惑いの感情も混じっている気がした

その瞬間、私はどれだけ酷い事を言ってしまったのかと後悔した

静雄は私を思ってしてくれていたのに、私は自分勝手にその静雄の優しさを踏みにじる事をしてしまった……


「あ……ごめん…………私……ちょっとトムさん呼んでくるよ……あはは……」


私は静雄の顔を真っ直ぐに見れなくなって、静雄に謝ってからソファから立ち上がって、ドアに早足で向かった


「……ナマエ……!!」


あと二、三歩でドアに着く時に静雄が急に私の名前を呼んで手を掴んできた

驚いていると、静雄は手を掴んでいない反対側の手で、ゆっくりとだが私の後頭部に触れた


「……静……雄……?」

「…………」


静雄はゆっくりと後頭部を自分の胸に近付けた

そして、壊れ物でも扱う様に私の背中に手を回した


「……ほら……これで文句ねぇだろ……」

「……へへっ……ありがとう」


静雄の言葉にそう答えて、私も手を静雄の背中に回した

それから、少しの間そうしていたが、事務所に入ろうとしたトムさんと目が合い、気まずくなりながら私は静雄と離れた

あの時のトムさんの顔……めちゃくちゃ驚いていた……

そんな終わり方になったが、度々静雄は私を抱き締めてくれるようになった
 

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